「なんだお前、肝っ玉仁愛様なのに塾でいじめられてんのか?」
「られてないから。あと『仁愛様』言うな」
「だったらなんで行かないんだよ」
直巳が「ん?」と顔を覗き込んでくる。仁愛はぷいっとそっぽを向いて、考える。
塾に行きたくない理由があるわけではない。勉強が嫌いということでもない。ただ、行ったところで何になるのか、と思う。
行きたい大学も、就きたい職業もない。泉のようなスマートな大人になりたいと思うが、では泉と同じキャリアを目指そうというのは何かが違う。
やりたいことがないから、何をするにもやる気が起きない。全て無意味に思える。
(贅沢な悩み。直巳には口が裂けても言えない。ここに来たいからってのもあるけど……これも、言えない)
仁愛は考えながら、横目にちらっと隣を見た。直巳は膝を抱えて座り、膝頭に頭を乗せてこちらを見ている。
「……あ、あんたは、なんで海軍学校に行こうと思ったの?」
尋ねると、直巳が「俺?」と頭を上げた。
「なんだ、進路選びの参考にしようってか?」
「う、うん」
「なんでお前は俺を参考にしようとすんだよ……どう考えてもならないぞ。時代も境遇も違いすぎる」
「でも、考え方とか、何かヒントになるかも。教えてよ」
「お前、何人兄弟だ?」
「え? 一人っ子だけど」
「なら参考にならないな」
「なんでよ。もう、なんか普通に気になってきたから教えて!」
仁愛が食い下がると、直巳は「塾の話どこ行ったよ」と独りごち、
「俺は五人きょうだいの四番目だ。上に兄一人と姉二人がいる。その三人が大学に行くのに、流石に俺の分まで学費は出せないから、金が掛からない海軍学校に行った」
つらつらと話した後、「ほら、参考にならないだろ?」と手を振る。軽い調子の彼に反して、仁愛は衝撃を受けた。
「じゃあ、あんたは……軍人になりたかったわけじゃないってこと?」
それなのに、命を賭して戦っていたのか。いつ死ぬかわからない空を飛び続けていたのか。それで死んで——今、『死』に帰ろうというのか。
(そんなの、あんまりだよ)
仁愛がショックを受けていることに気づいたのか、直巳は困ったように笑って後ろ頭を掻いた。何かを探すように視線を動かして、
「あの時代、戦闘機乗りってのは花形職業だ。かっこいいってんで、男はみんな憧れた」
「られてないから。あと『仁愛様』言うな」
「だったらなんで行かないんだよ」
直巳が「ん?」と顔を覗き込んでくる。仁愛はぷいっとそっぽを向いて、考える。
塾に行きたくない理由があるわけではない。勉強が嫌いということでもない。ただ、行ったところで何になるのか、と思う。
行きたい大学も、就きたい職業もない。泉のようなスマートな大人になりたいと思うが、では泉と同じキャリアを目指そうというのは何かが違う。
やりたいことがないから、何をするにもやる気が起きない。全て無意味に思える。
(贅沢な悩み。直巳には口が裂けても言えない。ここに来たいからってのもあるけど……これも、言えない)
仁愛は考えながら、横目にちらっと隣を見た。直巳は膝を抱えて座り、膝頭に頭を乗せてこちらを見ている。
「……あ、あんたは、なんで海軍学校に行こうと思ったの?」
尋ねると、直巳が「俺?」と頭を上げた。
「なんだ、進路選びの参考にしようってか?」
「う、うん」
「なんでお前は俺を参考にしようとすんだよ……どう考えてもならないぞ。時代も境遇も違いすぎる」
「でも、考え方とか、何かヒントになるかも。教えてよ」
「お前、何人兄弟だ?」
「え? 一人っ子だけど」
「なら参考にならないな」
「なんでよ。もう、なんか普通に気になってきたから教えて!」
仁愛が食い下がると、直巳は「塾の話どこ行ったよ」と独りごち、
「俺は五人きょうだいの四番目だ。上に兄一人と姉二人がいる。その三人が大学に行くのに、流石に俺の分まで学費は出せないから、金が掛からない海軍学校に行った」
つらつらと話した後、「ほら、参考にならないだろ?」と手を振る。軽い調子の彼に反して、仁愛は衝撃を受けた。
「じゃあ、あんたは……軍人になりたかったわけじゃないってこと?」
それなのに、命を賭して戦っていたのか。いつ死ぬかわからない空を飛び続けていたのか。それで死んで——今、『死』に帰ろうというのか。
(そんなの、あんまりだよ)
仁愛がショックを受けていることに気づいたのか、直巳は困ったように笑って後ろ頭を掻いた。何かを探すように視線を動かして、
「あの時代、戦闘機乗りってのは花形職業だ。かっこいいってんで、男はみんな憧れた」
