甲子園に出るような野球選手がバットを捨てて銃を取り、オリンピックに出るような陸上選手が血みどろの戦場を走った。
なんの取り柄もない人だって、そこで『自分』を生きていた。未来があった。やりたいことがあった。それを踏み躙ったのが戦争だ。
彼らを『可哀想』と言わないのなら、一体何を『可哀想』と言うのか。
(でもこれは、今に生まれた私の価値観。今を生きる人みんなが私と同じ考えってわけでもない。直巳は私じゃないし、生まれ育った時代も違う)
仁愛がぐるぐると思考して答えを出せずにいると、こちらを見ていた直巳がフッと笑い、「お前は真面目お嬢様だな」とベンチに凭れた。
「まあ、可哀想は可哀想だ。死んだ奴らだけじゃない。時代に翻弄された全ての人間は、大なり小なり可哀想だった」
「そう、だよ。……可哀想だよ。戦争がなければ、普通に暮らしていられた」
「そうだな。だが、戦争は起こった。普通の暮らしはできなかった。これが現実だ」
「……何が、言いたいの?」
「『可哀想』は終わったってことだ」
「?」
「今、可哀想な奴らはいない。みんな死んだからな。『可哀想』は過去になった。お前たちはその先にいる」
直巳は深く長いため息をつき、
「俺たちは無駄死にだったのか、それとも、死んだ甲斐があったのか……それを決めるのは未来にいるお前たちだ。お前たちが作る世界だ。だから、『可哀想』なんて言葉で片付けて、思考を止めることは、して欲しくない」
彼らしくない、やけに静かで凛とした声で言うと、「俺の続きにお前がいる」と続け、
「お前は、俺が元の時代に帰ることを、『無駄死に』だと思うか?」
思う、というのが仁愛の答え。それは決して、愚かな死への揶揄ではない。死なないで欲しい思いの裏返し。
ゆえに、答える。
「無駄死にじゃない」
断言する。それが決して本心でなくとも。真に願うことと違っていても。
「遠い昔の人たちがバトンを繋ぎ続けた先に、今がある。どれか一つでも欠けてたら『今』にならなかった。だから、無駄なことなんて一つもない。」
『可哀想』とか、『無駄死に』とか、『過ち』とか——そういう簡単な言葉で答えを出して、そこで終わりにしてはならない。
考えていかなければならない。決して忘れず、考え続けなければならない。ここは過去の延長線上。今を生きる人間にできることは、過去に恥じない未来を紡いでいくこと。
それだけが、『今』が『過去』に対してできること。
なんの取り柄もない人だって、そこで『自分』を生きていた。未来があった。やりたいことがあった。それを踏み躙ったのが戦争だ。
彼らを『可哀想』と言わないのなら、一体何を『可哀想』と言うのか。
(でもこれは、今に生まれた私の価値観。今を生きる人みんなが私と同じ考えってわけでもない。直巳は私じゃないし、生まれ育った時代も違う)
仁愛がぐるぐると思考して答えを出せずにいると、こちらを見ていた直巳がフッと笑い、「お前は真面目お嬢様だな」とベンチに凭れた。
「まあ、可哀想は可哀想だ。死んだ奴らだけじゃない。時代に翻弄された全ての人間は、大なり小なり可哀想だった」
「そう、だよ。……可哀想だよ。戦争がなければ、普通に暮らしていられた」
「そうだな。だが、戦争は起こった。普通の暮らしはできなかった。これが現実だ」
「……何が、言いたいの?」
「『可哀想』は終わったってことだ」
「?」
「今、可哀想な奴らはいない。みんな死んだからな。『可哀想』は過去になった。お前たちはその先にいる」
直巳は深く長いため息をつき、
「俺たちは無駄死にだったのか、それとも、死んだ甲斐があったのか……それを決めるのは未来にいるお前たちだ。お前たちが作る世界だ。だから、『可哀想』なんて言葉で片付けて、思考を止めることは、して欲しくない」
彼らしくない、やけに静かで凛とした声で言うと、「俺の続きにお前がいる」と続け、
「お前は、俺が元の時代に帰ることを、『無駄死に』だと思うか?」
思う、というのが仁愛の答え。それは決して、愚かな死への揶揄ではない。死なないで欲しい思いの裏返し。
ゆえに、答える。
「無駄死にじゃない」
断言する。それが決して本心でなくとも。真に願うことと違っていても。
「遠い昔の人たちがバトンを繋ぎ続けた先に、今がある。どれか一つでも欠けてたら『今』にならなかった。だから、無駄なことなんて一つもない。」
『可哀想』とか、『無駄死に』とか、『過ち』とか——そういう簡単な言葉で答えを出して、そこで終わりにしてはならない。
考えていかなければならない。決して忘れず、考え続けなければならない。ここは過去の延長線上。今を生きる人間にできることは、過去に恥じない未来を紡いでいくこと。
それだけが、『今』が『過去』に対してできること。
