マスクを外しながら微笑んで、「『藤野中佐』かぁ」と嬉しそうに肩を揺らす。
その様子に仁愛は、
(バカみたい)
内心で悪態をつくのは、彼に対してではない。その時代。その価値観。彼にこんなことを言わせる世界に対して。
死後出世したからなんだと言うのか。死後の栄光など無意味。何にもならない。当の本人がいないのだから。
ムカつく。悲しい。反吐が出る。——それから、どうしようもなく、虚しい。
(直巳をこの時代に連れて来たのが神様だったとして、どうしてそんなことをしたんだろう。ここにはもう、直巳を『中佐』って呼ぶ人はいないのに)
自らに還らない栄光を見せて、一体、何を。——そんなことを考えたところで、どこかから女の啜り泣く声が聞こえてきた。
向こうの展示室から、二十代くらいの女が二人、出てくるところ。一人がハンカチで口元を覆っていて、もう一人がその背中をさすっている。
ハンカチの方が肩を震わせて、
「十七歳だってさ。今だったら高校生だよ。そんな若い子が爆弾くっつけた飛行機に乗って、敵に突っ込むなんて……」
「あの遺書、すごい達筆で、内容しっかりしてたね」
「大人みたい。……子供でいられない時代だったんだよ」
「生まれる時代が違ったら、その辺のカフェで駄弁ってられただろうに」
「可哀想」
可哀想、可哀想、と言いながら、ゆっくり階段を降りていく。それを見ていた直巳が、足音が聞こえなくなったところで尋ねた。
「あっちには何があるんだ?」
彼が向いた先には、女たちが出てきた展示室の入り口。
「遺書と遺影だよ。……特攻で死んだ人たちの」
仁愛が答えると、直巳は「ふうん」と手元に視線を落とした。それから少しして、「お前も……」と横目にこちらを見る。
「お前も、戦争で死んだ奴らは『可哀想』だと思うか?」
その問いは暗に、「自分は思わない」と言っているよう。仁愛はそれが不思議でならない。
どう考えても可哀想だろう。戦争がなければ死なずに済んだ、未来があった人たちだ。
学徒出陣の名の下に戦場へ駆り出された学生たちは、未来のために学問をしていた。そのまま生きていたらすごい発見をした人もいるかもしれない。
その様子に仁愛は、
(バカみたい)
内心で悪態をつくのは、彼に対してではない。その時代。その価値観。彼にこんなことを言わせる世界に対して。
死後出世したからなんだと言うのか。死後の栄光など無意味。何にもならない。当の本人がいないのだから。
ムカつく。悲しい。反吐が出る。——それから、どうしようもなく、虚しい。
(直巳をこの時代に連れて来たのが神様だったとして、どうしてそんなことをしたんだろう。ここにはもう、直巳を『中佐』って呼ぶ人はいないのに)
自らに還らない栄光を見せて、一体、何を。——そんなことを考えたところで、どこかから女の啜り泣く声が聞こえてきた。
向こうの展示室から、二十代くらいの女が二人、出てくるところ。一人がハンカチで口元を覆っていて、もう一人がその背中をさすっている。
ハンカチの方が肩を震わせて、
「十七歳だってさ。今だったら高校生だよ。そんな若い子が爆弾くっつけた飛行機に乗って、敵に突っ込むなんて……」
「あの遺書、すごい達筆で、内容しっかりしてたね」
「大人みたい。……子供でいられない時代だったんだよ」
「生まれる時代が違ったら、その辺のカフェで駄弁ってられただろうに」
「可哀想」
可哀想、可哀想、と言いながら、ゆっくり階段を降りていく。それを見ていた直巳が、足音が聞こえなくなったところで尋ねた。
「あっちには何があるんだ?」
彼が向いた先には、女たちが出てきた展示室の入り口。
「遺書と遺影だよ。……特攻で死んだ人たちの」
仁愛が答えると、直巳は「ふうん」と手元に視線を落とした。それから少しして、「お前も……」と横目にこちらを見る。
「お前も、戦争で死んだ奴らは『可哀想』だと思うか?」
その問いは暗に、「自分は思わない」と言っているよう。仁愛はそれが不思議でならない。
どう考えても可哀想だろう。戦争がなければ死なずに済んだ、未来があった人たちだ。
学徒出陣の名の下に戦場へ駆り出された学生たちは、未来のために学問をしていた。そのまま生きていたらすごい発見をした人もいるかもしれない。
