あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

(死後の自分なんかを信じてたから、死を避けようとしなかったのか。……信じてたから、絶望的な戦場で生きていられたのか)

 仁愛は考えつつ、カバンから使い捨てマスクを取り出した。

「直巳、これつけて」

 零戦を眺めていた直巳が、不思議そうな顔でこちらへ来る。

「なんでだ?」
「あんたの遺品のところに、あんたの顔写真があるの。今は髪の毛あるから、雰囲気違くて気づかれないと思うけど、一応顔隠して」
「おい、俺がハゲてたみたいに言うな」
「ほら、早く」

 直巳が不服そうに口を曲げてマスクを受け取る。彼がつけている間に仁愛はチケットを買った。「口がモゾモゾする」と呟く直巳と共に入場ゲートを通る。

 太平洋戦争の展示がある一階に直接行けないことを面倒に思いながら、まず二階へ。

「へえ。明治維新から展示があるのか」

 一歩後ろを歩く直巳の声を聞きながら、西南戦争から日中戦争までの歴史を早歩きで通り過ぎる。一階に降りて、太平洋戦争勃発。ビルマの戦い、ミッドウェー海戦、アッツ島玉砕。

 直巳の遺品の直前。血のついた日本国旗の寄せ書き前で、仁愛は足を止めた。周囲に人影はない。

 静寂。向こうのフロアで流しっぱなしになっている映像の、ざらざらした音声が微かに聞こえる。

「どうした?」

 直巳が隣に並んだ。

「あのさ」仁愛は俯き、「()()()、元の時代に戻ったらすぐ死んじゃうとしたら、あんた、どう思う?」

 白々しい問いだ。『戻ったらお前は死ぬ』と言っているのと同じこと。それでも、彼が証拠を見る前に確認しておきたかった。

 彼が少しでも悲しみを見せたら、すぐに帰る。そう思って隣を見上げると、

「別に、どうも思わない」

 悲しみも恐怖もかけらさえない、あっけらかんとした顔で、直巳がこちらを見下ろしている。

「まあ、正直なところ……あの状況にポンと戻ったとして、生還は難しいと思う」

 それなのに帰りたいのか。——それなのに、帰らなければならないのか。

 今を『まるで別世界だ』と言った時のどこか寂しげな顔。あれは、自分の世界はここではないと思ったからだろう。居場所がないから、寂しいのだろうか。