あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

 翌日、仁愛は直巳と共に電車に乗って靖国神社へ向かった。蒸し暑い夏空の下を歩いて横断歩道を渡り、さて第一鳥居をくぐろうというところで、

「うおっ、ここ靖国か!」

 鳥居の横の石に刻まれた『靖国神社』の文字に、直巳がギョッとした様子で立ち止まった。

「全然気づかなかった……」

 それから唖然とした顔で鳥居を仰ぎ、広い参道を望んで「立派になったなぁ」と独りごちる。

「来たことあるの?」

 仁愛が尋ねると、直巳は「ああ」と言って歩き出した。

「大東亜戦争が始まった時に、一度だけ」
「だいとう……」
「ああ、今は『太平洋戦争』って言うんだったか」

 直巳が「色々変わったなぁ」と独りごちる。仁愛はそこでようやく、先日ここで見た『大東亜』の文字と直巳が言う『だいとうあ』の音が結びついた。

(そういえば、ここの資料館は太平洋戦争を『大東亜戦争』って書いてるからどうのこうのってSNSで見たなぁ。何が問題なんだろう。同じものを指してるはずで……展示よく読んだらわかるかな?)

 丸い広場に差し掛かり、真ん中に立つ大村益次郎像を横目に進む。第二鳥居が見えてきたところで、直巳が「立派な国になったな」と呟いた。

「建物はデカいし、道はどこも舗装されてるし、車がたくさん走ってて、お前みたいなガキでもちょっと金出せばいろんなところに行ける」
「ガキって言うのやめてってば」
「みんな綺麗な服着てて、なんでも売ってるし、飯は美味いし、ちょっと金出せばどこででも唐揚げ食えるし」
「……あんた、だいぶ唐揚げ好きなんだ?」
「その辺歩いてて物乞い見かけることなんか滅多にないし、子供はみんな健康そうだ。道端にはゴミもうんこも落ちてない」
「昔はうんこ落ちてたの!?」

 仁愛が驚いて声を上げると、直巳はなぜかしたり顔で「立ちションしてる奴もいない」と付け足した。それから向こうの拝殿を望み、

「豊かな国だ」

 誇らしげな顔で言い、

「まるで別世界だ」

 静かに、どこか寂しげに続けた。拝殿前で立ち止まり、

「で、ここに来て何すんだ?」