あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

「な——おい————ぃな——仁愛!」

 仁愛はハッとして隣を見た。直巳が「大丈夫かぁ?」と怪訝そうな顔をする。

 ここはいつもの橋の下。仁愛はいつもの段ボールに座っていて、いつも通り川が流れていて、隣には直巳がいる。

「えっ……ごめん、ぼーっとしてた。何?」

 尋ねると、直巳が手のひらを額に当ててくる。「またカフェーに行くか?」と言う彼は心配そうな顔。

「大丈夫だよ」仁愛はその手を軽く払いのけ、「てかなんで最後伸ばすの? 『カフェー』じゃなくて『カフェ』だよ」と話題を逸らした。

「いや、だって、カフェーはカフェーだろ」
「あんたのいた時代では『カフェー』だったの?」
「ああ」
「でもこの時代では『カフェ』だから。『カフェ』って言って」
「お前は細けえなぁ」

 直巳が後ろ頭をガシガシと掻き、「で、何悩んでんだよ」と尋ねる。

「え?」
「昨日もそうやってぼーっとしてただろ。なんかあるなら言え」

 靖国神社に行った翌日——つまり昨日、仁愛は直巳に、靖国神社でのことを言えずにいた。ずっと伝えるか悩み、夜もろくに眠れず今日に至る。

(どうして言えないんだろ。なんでここに来たかわかんないってことは、いつ帰ることになるかわかんないわけで、知らないで急に戻っちゃうより、知ってた方が——)

 直巳が「言いづらいことか?」と尋ねてくる。仁愛は悩み、口を開いた。

「あんたはさ、その……元の時代に、帰りたいんだよね?」

 その問いに、直巳が不思議そうに片眉を上げる。

「そりゃな。だからここにいる」
「……死んじゃうとしても?」
「軍人になった時から、死ぬ覚悟はできてる」
「死にたくないって、思わないの?」
「まあ、死ぬより生きてる方がいいが……俺は軍人だ。立派に戦って立派に死ぬために戦闘機乗りになった」

 あっけらかんとした顔で言う彼に、仁愛は内心、衝撃を受けた。

 戦争映画とか、ドキュメンタリー番組とかでよく聞くセリフ。映像で聞くには『そういう価値観の時代だったのか』と思うくらいだったが、直に聞くと印象がまるで違う。