あの橋の下の暗がりで、『今』に続く君を思う

 優しさ——時代も常識も違う世界で、変わらないもの。

(直巳が帰るなら、あたしも一緒に……ん? いや、何考えてんのあたし!?)

 仁愛は変な方向へ進みそうな思考に気づき、自分の頬を両手で叩いた。「うおっ」と直巳の驚く声。「ど、どうした」と顔を覗き込んでくる。

「日射病で頭がおかしく——」
「だから、日射病じゃないってば。てかその言い方古い! 今は『熱中症』!」
「そ、そうか」
「それから、あたしそんな弱くないから。割と体力ある方だし、体調管理くらいできるよ」
「んなこと言ったってなぁ……ひょろいし白いし、病弱な箱入りお嬢様って感じだ」
「だからお嬢様って言うな!」

 そんなことを話しながら歩き、向こうに目的地が見えてきた。緑と黒を基調とした、シックな見た目のカフェ。入り口横のメニュー表の前に、数人の若者の後ろ姿。

 ふと、一人が振り返り——

「あっ、大和」

 仁愛が独りごちた瞬間、振り返った若者——大和が驚愕に目を見開いた。

「おいお前ら! あいつだ! 逃げるぞ!」

 彼が半ば悲鳴のように言うと同時に、仁愛はそこにいるのが大和の取り巻きたちであることに気がついた。皆が一斉にこちらを向き、「うわあ!」とか「殺される!」とか叫んで走り出す。

 あれよあれよという間に大和たちは通りの向こうへ。それを見送った直巳がゲンナリ顔で、

「あいつらは、あれか。ファッション不良だったってことか」
「あんたが喧嘩慣れし過ぎなんだよ。あの人数相手に無傷とか、バケモノかと思った」
「そういやお前、ビビって腰抜かしてたな」
「全然、ビビってないし」
「嘘つけ」

 話しながら前へ向き直った仁愛は、メニュー表の前からこちらを見ている人影に気づいた。

「何、仁愛。そっちにつくことにしたんだ?」

 依茉だ。ひらひらと手を降りながら近づいてきて、大和たちが逃げた方を見やる。

「あいつらダッサいわー」

 呆れた様子で言ってからこちらを向き、

「あんたも同じくらいダサい」

 吐き捨てるように。

「いい子ちゃんやめたいって言うから誘ってやったのに。結局戻るんだ? あんたの決意ってその程度だったってわけ」