「通りの向こうに、お前くらいの年頃の女学生がわんさかいる店があったな。なんたらフラペとかが人気の……そっちに行こう」
「なんで?」
「お前がガキだってことすっかり忘れてた」
「いや、なんで急に喧嘩売るの」
直巳が「売ってない」と言いながら歩き出す。仁愛はそれについて行こうとして、ふとドアの向こうからタバコの匂いがすることに気がついた。
(昭和の時代って、どこでもタバコ吸っていい感じじゃなかったっけ?)
父が若い頃は新幹線の車内でもタバコが吸えて、周りに妊婦がいようと子供がいようと皆関係なく吸っていたと聞いたことがある。そのさらに昔の人間である直巳が、タバコを気にするとは考えにくいが、
(この時代に染まりつつある……って言うとちょっと違うか。ここで暮らすために必要な価値観を収集、って感じかな)
暮らしていくつもりはないのにそうするのは、万全の状態で帰るためだったりするのだろうか。五体満足健康体で、死ぬかもしれない戦場へ。
「おい、どうした?」
考えていたら、先に行った直巳が戻ってきた。「やっぱり日射病か?」と額に手を当ててくる。
「お前、さっきからずっとボーッとしてるな」
「大丈夫。少し考え事してただけ」
「歩けるか?」
「だから、平気だってば」
仁愛が額の手を軽く払うと、直巳は「本当かぁ?」と怪訝そうに片眉を上げて、
「お前はどうも、放っておいたらその辺でコロッと野垂れ死にしそうだからな」
踵を返し、半分だけこちらを振り返る。仁愛が歩き出すと前を向き、ゆったりとした歩調で歩き出した。
(茶化してるわけじゃなくて、こいつは本当にそう思ってる。……それだけ、死が身近にあったということ)
現代のような医療がない。倒れても救急車など来ない。加えて、空からは爆弾が降ってきて、戦場では引き金を引く指先の一つが軽々と命を吹き飛ばす。
命が軽かったと言うべきか。それとも、だからこそ生きることが尊いことだったと言うべきか。
(同年代の人間同士。言葉が通じて、馬鹿話もできるけど、あたしと直巳は根っこの部分が全然違う)
違うけれど、仁愛の体調を気遣う。橋の下にいたいだろうに、着替えて一緒にここへ来た。
「なんで?」
「お前がガキだってことすっかり忘れてた」
「いや、なんで急に喧嘩売るの」
直巳が「売ってない」と言いながら歩き出す。仁愛はそれについて行こうとして、ふとドアの向こうからタバコの匂いがすることに気がついた。
(昭和の時代って、どこでもタバコ吸っていい感じじゃなかったっけ?)
父が若い頃は新幹線の車内でもタバコが吸えて、周りに妊婦がいようと子供がいようと皆関係なく吸っていたと聞いたことがある。そのさらに昔の人間である直巳が、タバコを気にするとは考えにくいが、
(この時代に染まりつつある……って言うとちょっと違うか。ここで暮らすために必要な価値観を収集、って感じかな)
暮らしていくつもりはないのにそうするのは、万全の状態で帰るためだったりするのだろうか。五体満足健康体で、死ぬかもしれない戦場へ。
「おい、どうした?」
考えていたら、先に行った直巳が戻ってきた。「やっぱり日射病か?」と額に手を当ててくる。
「お前、さっきからずっとボーッとしてるな」
「大丈夫。少し考え事してただけ」
「歩けるか?」
「だから、平気だってば」
仁愛が額の手を軽く払うと、直巳は「本当かぁ?」と怪訝そうに片眉を上げて、
「お前はどうも、放っておいたらその辺でコロッと野垂れ死にしそうだからな」
踵を返し、半分だけこちらを振り返る。仁愛が歩き出すと前を向き、ゆったりとした歩調で歩き出した。
(茶化してるわけじゃなくて、こいつは本当にそう思ってる。……それだけ、死が身近にあったということ)
現代のような医療がない。倒れても救急車など来ない。加えて、空からは爆弾が降ってきて、戦場では引き金を引く指先の一つが軽々と命を吹き飛ばす。
命が軽かったと言うべきか。それとも、だからこそ生きることが尊いことだったと言うべきか。
(同年代の人間同士。言葉が通じて、馬鹿話もできるけど、あたしと直巳は根っこの部分が全然違う)
違うけれど、仁愛の体調を気遣う。橋の下にいたいだろうに、着替えて一緒にここへ来た。
