あの橋の下の暗がりで、『今』に続く君を思う

 足元を見下ろす。透明な川面に映るのは、真っ青な夏空を背にした自分の顔。暑さで疲れ切った表情だが、以前より顔色がいい気がする。

 そうしてしばらく。「んな日向で何やってんだ」と直巳の声。

「焼け死んじまうぞ」

 茶化すような声色に、仁愛はふと、彼の言葉を思い出した。

『家族は、いた』

 彼の名前を知った日。

『だが、もういない。空襲で家ごと焼けて全員死んだ』

 仁愛にとっては、物語のような現実味のない話。直巳にとっては確かに存在する過去。仁愛には想像もつかないような、身を裂くような悲しみがあっただろう。

(『焼け死ぬ』とか、そのことを思い出すから、普通、言わない。周りも言わないように気をつける)

 彼が嘘をついたということはないと思う。空襲で焼け死ぬことも、それで大切な人を失うことも、ありふれていたということだろう。

「どうした。日射病か?」

 考えていたら、直巳に額を小突かれた。仁愛が両手でパッと額を隠すと、直巳が「その動きなら大丈夫そうか」と笑う。

「行くぞ」

 そう言って踵を返す彼は、普通の服に着替えている。無地のTシャツと細身のチノパン、足元はブーツからサンダルへ。

「行くって、どこに?」
「あー……どっか、喫茶店とか。涼しくて飲みもんあるとこ」
「なんで着替えたの?」
「流石に、飛行服でそういうとこ入ったら目立つからな」
「橋の下でも目立つよ」
「そうか?」

 仁愛は小走りで直巳に追いつき、隣に並ぶ。

「あんたの私物、泉さんのところに置いてるんだ?」
「言うほどないけどな。店入る時に着る服と、仕事で使うもんくらいだ」
「あんたも小屋建てればいいのに」

 何の気なしに仁愛は言い、

「建てない。小屋ごと操縦席に戻っちまったらマズいからな」

 直巳もまた、何の気なしに言ったのだろう。

 その言葉に、仁愛ははたと気づいた。

(直巳がいつも橋の下にいるのは……)