あの橋の下の暗がりで、『今』に続く君を思う

 いつの間にか梅雨が明けていて、期末試験の返却を経て終業式を迎えた。

 結局、進路希望調査は両親に見せないまま、適当に進学先の大学を書いて提出することにした。第三希望までの大学名と学部名を書かなければならない。

 これはなんとなく。本当になんとなくだが、日本史を学べる大学を書いた。スマホで大学のホームページを確認して、近代史を研究している教授がいる学部を。

 提出すると、担任の佐藤は「はい。確かに受け取りました」と言って職員室に戻って行った。本当に両親に見せたのか、きちんと考えたのか、などの確認はなし。

 彼女が生きている世界では、こういう時の生徒は言われた通りに行動すると決まっているらしい。

(まあ、確認されても面倒なんだけどさ。……これはこれで、なんかムカつく)

 そうして迎えた夏休み。仁愛はほぼ毎日、相砂川の橋の下を訪れている。直巳がいるときはあれこれ言い合いをして、いないときは泉と一緒に釣りをしたり、瀬川の会話の練習に付き合ったり。

「お前、また来たのかよ」

 今日は直巳がいる。橋の下の日陰に横たわって、ぼうっと川を眺めていた。

「ハンカチ持ってきたのか?」

 彼はいつも尋ね、

「忘れた」

 仁愛は当たり前のことのように答える。最初の三回までは怪訝そうな顔をしていた直巳だが、最近はもう諦めたらしい。

「だったら用ないだろ。帰れよ」
「あたしがどこにいようと、あたしの勝手でしょ」

 仁愛が直巳の隣の石の上に座ると、彼はのそっと起き上がって橋脚を背もたれにして座る。仁愛は横に少し移動して、彼が寝ていた段ボールの空いたところに座る。

「またあいつらが来て巻き込まれたらどうすんだ」

 直巳がどこか呆れた様子で言う『あいつら』とは、大和たちのこと。

「大和たち、よく来るの?」
「月に一度くらいか。ふと思い出したように来て、向こうの奴らを殴って遊んでた」

 直巳は言いながら、泉たちのブルーシート小屋がある方を向いた。憤るでも悲しむでもなく淡々とした口調で語るのは、彼がいた時代は、今より暴力が身近にあったからだろうか。