直巳がぐぬぬと顔を顰め、泉が「梛木さんはしっかり者さんだねぇ」と微笑む。仁愛はテーブルからパエリアを取り、
「これ、作った人の自信作なんです。瀬川さんはパエリア好きですか?」
差し出しつつ尋ねると、瀬川がコクっと首肯して受け取った。袋からスプーンを取って渡すと、またコクっと首を動かす。しかしそこから動かない。
仁愛はどうしようか考えながら、自分の油淋鶏弁当の蓋を取った。割り箸を割ったところで視界の端で何かが動き、見ると、瀬川がパエリアの蓋を開けている。
(あたしが先に食べるのを待ってる、みたいなことあるかな)
ふと考えて油淋鶏を齧ると、瀬川がチラリとこちらを見てスプーンを袋から出した。パエリアを大きく掬って口に運ぶ。
(合ってたみたい)
仁愛が付け合わせのほうれん草を口に入れたところで、唐揚げを飲み込んだ直巳が「おい、仁愛!」と不服そうな声を上げた。
「なんで瀬川にも丁寧語なんだよ!」
「…………」
「こいつまだ何もしてないだろ。どこに敬い要素あったんだ!」
「…………」
「……なんで黙ってんだよ」
「…………」
「よく噛んで食うのはいいことだな!」
直巳がなぜか悔しげに言って米を掻き込む。瀬川が本当に小さくクスッと笑った。仁愛はほうれん草を飲み込んで、「初対面でタメ語は失礼でしょ」と直己を見る。
「…………」
頬を米でパンパンにした直巳が、もぐもぐと口を動かしながらじっとこちらを見つめる。仁愛が棒読みで「今度はあんたが喋れないんかーい」と言うと、また瀬川がクスッと笑った。
(なんかこれ、楽しいかも)
家での食事はいつもギスギスした雰囲気で、家族の和気藹々とした会話などこの世界に存在しないかのよう。学校での食事は仁愛にとってただの作業。食べることは、命を繋ぐために仕方なくやること。
だからか、家に帰りたくなくてその辺を出歩いていると、ついつい食事を忘れてしまう。今はずっとここにいたい。こんな食卓が毎日なら、きっと食事の時間が待ち遠しくなる。
仁愛は考えながら油淋鶏を口へ。同時に直巳が「俺と初対面の時は——」と言いかけて、「三度目の正直ならず!」と宙を仰いだ。
「お前は本当に間が悪いなぁ!」
「…………」
「……そういや、お前が食ってるそれ、唐揚げに似てんな」
「…………」
「美味そうだ。一個くれ」
直巳が目にも止まらぬ速さで箸を伸ばし、仁愛の油淋鶏を一切れ奪った。仁愛が「んー!」と抗議の声を上げると、「口に食いもん入ってる時に喋んなよー」と勝ち誇った顔で言って油淋鶏を頬張る。
瀬川が笑い、泉が「女性のものを取るのは『大和魂』に反するのでは?」とため息をつき、直巳が「んー! んん!」と何かを言い、瀬川がまたクスッと笑みを溢す。
(今までの嫌なことは、ここに来るためにあったのかな)
仁愛は内心で独りごちる。これまでの日々があったから今の自分がここにあると思うと、少しだけ報われたような気がした。
「これ、作った人の自信作なんです。瀬川さんはパエリア好きですか?」
差し出しつつ尋ねると、瀬川がコクっと首肯して受け取った。袋からスプーンを取って渡すと、またコクっと首を動かす。しかしそこから動かない。
仁愛はどうしようか考えながら、自分の油淋鶏弁当の蓋を取った。割り箸を割ったところで視界の端で何かが動き、見ると、瀬川がパエリアの蓋を開けている。
(あたしが先に食べるのを待ってる、みたいなことあるかな)
ふと考えて油淋鶏を齧ると、瀬川がチラリとこちらを見てスプーンを袋から出した。パエリアを大きく掬って口に運ぶ。
(合ってたみたい)
仁愛が付け合わせのほうれん草を口に入れたところで、唐揚げを飲み込んだ直巳が「おい、仁愛!」と不服そうな声を上げた。
「なんで瀬川にも丁寧語なんだよ!」
「…………」
「こいつまだ何もしてないだろ。どこに敬い要素あったんだ!」
「…………」
「……なんで黙ってんだよ」
「…………」
「よく噛んで食うのはいいことだな!」
直巳がなぜか悔しげに言って米を掻き込む。瀬川が本当に小さくクスッと笑った。仁愛はほうれん草を飲み込んで、「初対面でタメ語は失礼でしょ」と直己を見る。
「…………」
頬を米でパンパンにした直巳が、もぐもぐと口を動かしながらじっとこちらを見つめる。仁愛が棒読みで「今度はあんたが喋れないんかーい」と言うと、また瀬川がクスッと笑った。
(なんかこれ、楽しいかも)
家での食事はいつもギスギスした雰囲気で、家族の和気藹々とした会話などこの世界に存在しないかのよう。学校での食事は仁愛にとってただの作業。食べることは、命を繋ぐために仕方なくやること。
だからか、家に帰りたくなくてその辺を出歩いていると、ついつい食事を忘れてしまう。今はずっとここにいたい。こんな食卓が毎日なら、きっと食事の時間が待ち遠しくなる。
仁愛は考えながら油淋鶏を口へ。同時に直巳が「俺と初対面の時は——」と言いかけて、「三度目の正直ならず!」と宙を仰いだ。
「お前は本当に間が悪いなぁ!」
「…………」
「……そういや、お前が食ってるそれ、唐揚げに似てんな」
「…………」
「美味そうだ。一個くれ」
直巳が目にも止まらぬ速さで箸を伸ばし、仁愛の油淋鶏を一切れ奪った。仁愛が「んー!」と抗議の声を上げると、「口に食いもん入ってる時に喋んなよー」と勝ち誇った顔で言って油淋鶏を頬張る。
瀬川が笑い、泉が「女性のものを取るのは『大和魂』に反するのでは?」とため息をつき、直巳が「んー! んん!」と何かを言い、瀬川がまたクスッと笑みを溢す。
(今までの嫌なことは、ここに来るためにあったのかな)
仁愛は内心で独りごちる。これまでの日々があったから今の自分がここにあると思うと、少しだけ報われたような気がした。
