(あたしもいつか、今のことをこんなふうに話せる時が来るのかな)
内心で独りごちたところで、直巳が「早く来いよ」と言って、向こうの人影の腕を掴んで近づいてきた。泉が「梛木さんはどれ食べる?」とテーブルを見下ろし、仁愛は彼の斜め横に座る。
「ええっと……」
並んだ弁当を見下ろすも、視界の隅が気になって仕方がない。直巳が「何ビビってんだ」と言い、人影が「だってぇ」とか細い声を出す。
歳の頃は直巳の一回り上か。三十歳くらいに見える。ボサッとした前髪で目元を隠した、ヒョロっとしていて頼りない雰囲気の男。直巳に腕を引かれるままこちらへ来て、肩を押され、泉の向かいに座る。
「あたしは、油淋鶏にします」
仁愛が弁当を取ると、泉が「ああ、そういえば紹介がまだだったね」と言いながらビリヤニの蓋を開けた。
「彼は瀬川くん。僕よりここの生活が長い、ベテランさんだよ」
軽い調子の紹介に対して、男——瀬川は俯いたまま動かない。仁愛が「初めまして、梛木です」と言うと、厚ぼったい前髪の隙間からチラリとこちらを見てすぐに視線を落とした。
直巳が仁愛の向かいに座りながら、「こいつは人と話すのが苦手なんだ」と言う。「で、今は修行中」と続けて、テーブルを見下ろす。
「仁愛、このパンになんか挟んでるのはなんだ?」
「バインミーだよ。ベトナムのサンドイッチで、紅白なますとかの野菜と、レバーパテが挟んである」
「野菜かぁ……もっとガッツリしたもんが食いたい……おっ、唐揚げあるな。俺これにする」
「八十年前にも唐揚げあったの?」
「話には聞いたことがあったが、俺が初めて食ったのはこっち来てからだ」
「へえ」
「美味いよなぁ、これ」
直巳がご機嫌顔に弁当の蓋を開けて、泉はすでにビリヤニを食べている。仁愛は二人の様子を眺め、手元の油淋鶏弁当を見下ろし、何も持っていない瀬川の方を向く。
「あの、瀬川さんは、どれにしますか?」
尋ねると、唐揚げを頬張った直巳が「ほはは、はうへふお!」と不満げな顔で言って、箸をビシッとこちらへ向けた。
「何?」
「ふほーはふうお!」
「口に食べ物入ってる時に喋らないでよ。あとこの箸やめて。行儀悪い」
内心で独りごちたところで、直巳が「早く来いよ」と言って、向こうの人影の腕を掴んで近づいてきた。泉が「梛木さんはどれ食べる?」とテーブルを見下ろし、仁愛は彼の斜め横に座る。
「ええっと……」
並んだ弁当を見下ろすも、視界の隅が気になって仕方がない。直巳が「何ビビってんだ」と言い、人影が「だってぇ」とか細い声を出す。
歳の頃は直巳の一回り上か。三十歳くらいに見える。ボサッとした前髪で目元を隠した、ヒョロっとしていて頼りない雰囲気の男。直巳に腕を引かれるままこちらへ来て、肩を押され、泉の向かいに座る。
「あたしは、油淋鶏にします」
仁愛が弁当を取ると、泉が「ああ、そういえば紹介がまだだったね」と言いながらビリヤニの蓋を開けた。
「彼は瀬川くん。僕よりここの生活が長い、ベテランさんだよ」
軽い調子の紹介に対して、男——瀬川は俯いたまま動かない。仁愛が「初めまして、梛木です」と言うと、厚ぼったい前髪の隙間からチラリとこちらを見てすぐに視線を落とした。
直巳が仁愛の向かいに座りながら、「こいつは人と話すのが苦手なんだ」と言う。「で、今は修行中」と続けて、テーブルを見下ろす。
「仁愛、このパンになんか挟んでるのはなんだ?」
「バインミーだよ。ベトナムのサンドイッチで、紅白なますとかの野菜と、レバーパテが挟んである」
「野菜かぁ……もっとガッツリしたもんが食いたい……おっ、唐揚げあるな。俺これにする」
「八十年前にも唐揚げあったの?」
「話には聞いたことがあったが、俺が初めて食ったのはこっち来てからだ」
「へえ」
「美味いよなぁ、これ」
直巳がご機嫌顔に弁当の蓋を開けて、泉はすでにビリヤニを食べている。仁愛は二人の様子を眺め、手元の油淋鶏弁当を見下ろし、何も持っていない瀬川の方を向く。
「あの、瀬川さんは、どれにしますか?」
尋ねると、唐揚げを頬張った直巳が「ほはは、はうへふお!」と不満げな顔で言って、箸をビシッとこちらへ向けた。
「何?」
「ふほーはふうお!」
「口に食べ物入ってる時に喋らないでよ。あとこの箸やめて。行儀悪い」
