「なんで下の名前呼び捨てなんだよ」
「? あんただってあたしのこと『仁愛』って呼んでんじゃん」
「泉は『泉さん』って呼んでただろ」
「そりゃ、下の名前知らないし、知ってたとしてもそれで呼び捨てなんて失礼だからね」
「俺には失礼じゃないのか」
「あんたはまあ、同年代だし」
直巳が釈然としない顔で口を曲げる。仁愛が「それで、仕事は?」と尋ねると、また「そんなん聞いてどうすんだよ」と問いを返した。
「今後の参考にしようと思って」
「今後って、お前の将来?」
「うん」
「んなもん、参考になるわけねえだろ」
「わかんないじゃん」
「絶対ならない」
「なるかどうかはあたしが決める」
直巳がムッとした様子でこちらを見つめ、仁愛もまた負けじと彼から目を逸らさない。そうして少しの時間が経ったところで、「仲良しだねぇ」と泉の声。
「出会ったばかりとは思えない。青春だなぁ」
何やらほっこりした様子で言う彼に、直巳が「そんなことあるか」と吐き捨ててそっぽを向く。仁愛が「そんなことないですよ」と言うと、「なんで泉には丁寧口調なんだ」とどこか悔しげな顔をする。
「藤野くんは、この近くの工事現場の日雇いをやっているんだよ」
それから泉が言うのを聞いて、「ふんっ」と鼻を鳴らして空っぽの皿を置いた。
「工事現場って、履歴書なくても働けるんですか?」
「そういうわけではないかな。彼はまあ、私のツテでちょっとね、入れてもらっている感じ」
「ツテ?」
「ゼネコン関係にね、少し顔がきくんだ」
「……泉さんって、本当はすごい人なんですか?」
「いやいや、全然。私はただの、どこにでもいる無職のおっさんだよ」
泉はヘラっと笑ってカレーを一口。考え顔で咀嚼して、
「でも、普通のホームレスではないかな。だからね、他もみんな私のような人間だと思って近づいてはいけないよ」
仁愛が姿勢を正して「わかりました」と答えると、それを見た直巳が「おすまししちゃって」と呟く。
「何よ、『おすまし』って」
「猫被りとも言うな。いい子ちゃんづらしちゃってまぁ。俺に嫌味ったらしく『ナオミちゃん』とか言ったのはどこの誰だったか」
「何その言い方! 年長者を敬ってるだけだよ!」
「俺だってお前から見たら年長だ。五つも違う」
「だったらあんたも年上らしく、敬われるような言動しなさいよ」
「ちょっと待て。『も』ってなんだ。泉は敬われて然るべき年長者だとでも?」
「そうだよ」
「お前、それ絶対騙されてんぞ。まったく、これだから箱入りお嬢様は——」
「お嬢様って言うな!」
怒った仁愛が直巳の肩を叩くと、彼は「お嬢様のご乱心だ!」と言ってカラカラと笑う。二人を見ていた泉が、「若いっていいねぇ」と独りごちた。
「? あんただってあたしのこと『仁愛』って呼んでんじゃん」
「泉は『泉さん』って呼んでただろ」
「そりゃ、下の名前知らないし、知ってたとしてもそれで呼び捨てなんて失礼だからね」
「俺には失礼じゃないのか」
「あんたはまあ、同年代だし」
直巳が釈然としない顔で口を曲げる。仁愛が「それで、仕事は?」と尋ねると、また「そんなん聞いてどうすんだよ」と問いを返した。
「今後の参考にしようと思って」
「今後って、お前の将来?」
「うん」
「んなもん、参考になるわけねえだろ」
「わかんないじゃん」
「絶対ならない」
「なるかどうかはあたしが決める」
直巳がムッとした様子でこちらを見つめ、仁愛もまた負けじと彼から目を逸らさない。そうして少しの時間が経ったところで、「仲良しだねぇ」と泉の声。
「出会ったばかりとは思えない。青春だなぁ」
何やらほっこりした様子で言う彼に、直巳が「そんなことあるか」と吐き捨ててそっぽを向く。仁愛が「そんなことないですよ」と言うと、「なんで泉には丁寧口調なんだ」とどこか悔しげな顔をする。
「藤野くんは、この近くの工事現場の日雇いをやっているんだよ」
それから泉が言うのを聞いて、「ふんっ」と鼻を鳴らして空っぽの皿を置いた。
「工事現場って、履歴書なくても働けるんですか?」
「そういうわけではないかな。彼はまあ、私のツテでちょっとね、入れてもらっている感じ」
「ツテ?」
「ゼネコン関係にね、少し顔がきくんだ」
「……泉さんって、本当はすごい人なんですか?」
「いやいや、全然。私はただの、どこにでもいる無職のおっさんだよ」
泉はヘラっと笑ってカレーを一口。考え顔で咀嚼して、
「でも、普通のホームレスではないかな。だからね、他もみんな私のような人間だと思って近づいてはいけないよ」
仁愛が姿勢を正して「わかりました」と答えると、それを見た直巳が「おすまししちゃって」と呟く。
「何よ、『おすまし』って」
「猫被りとも言うな。いい子ちゃんづらしちゃってまぁ。俺に嫌味ったらしく『ナオミちゃん』とか言ったのはどこの誰だったか」
「何その言い方! 年長者を敬ってるだけだよ!」
「俺だってお前から見たら年長だ。五つも違う」
「だったらあんたも年上らしく、敬われるような言動しなさいよ」
「ちょっと待て。『も』ってなんだ。泉は敬われて然るべき年長者だとでも?」
「そうだよ」
「お前、それ絶対騙されてんぞ。まったく、これだから箱入りお嬢様は——」
「お嬢様って言うな!」
怒った仁愛が直巳の肩を叩くと、彼は「お嬢様のご乱心だ!」と言ってカラカラと笑う。二人を見ていた泉が、「若いっていいねぇ」と独りごちた。
