あの橋の下の暗がりで、『今』に続く君を思う

 スプーンで三口目を掬いながら答えた。

「そんなもんのためにわざわざ?」
「うん。借りっぱなしって性に合わないから」
「ふーん」
「でも持って来るの忘れた」
「……は?」
「だからまた来るわ」

 仁愛は言って、カレーを口に入れる。直巳が「暑さで判断力鈍ってるとかか?」と怪訝そうな顔で呟いた。仁愛がまた何を言うか考えながら咀嚼していると、泉が「今日は帰りが遅かったね」と直巳を見る。

「ああ……仕事終わった後、銭湯寄ったから」
「風呂嫌いの君が珍しいね」
「まあ、夏だしな」
「君なら、その川で泳いで済ませそうなのに」
「変な先入観でもの言うな」
「出会った時にやっていたじゃないか。私は見たよ、君の褌が川面に揺蕩う様を」
「あの時は色々わかってなかったんだ、忘れろ」

 直巳が「ふんっ」と鼻を鳴らしたと思ったら、勢いよくこちらを向き、

「泳いでないからな」

 勘違いするなよと念を押すように言って、カレーを掻き込む。彼の中でハンカチの話はどこかへ行ったらしい。

(なんか、めちゃくちゃさりげないから、あたしの思い違いかもしれないけど……)

 直巳が帰ってきた時も、今も。仁愛が返答に困っている場面で、泉は助け舟を出しているように見える。直巳の性格を理解した上で、さらっと話題を変えて。

 それでいて、そのことを全く表に出さない。今は「福神漬けも買っておけば良かったなぁ」とぼやいている。

(大人の余裕……なんか、かっこいいな。あたしもこういう大人になりたい)

 内心で独りごち、気づく。なりたい大人の姿などを考えたのは初めてだ。

 ずっと未来が見えずにいた。日々は失望の連続で、楽しみなことなど何もない。両親や学校の先生に幻滅するたび、大人になるのが嫌になった。

 今までいた場所、目にしたものは、世界のほんの一部分。()()()()の外側には、欲しい未来があるだろうか。

「ねえ、直巳。あんた仕事って何してんの?」

 尋ねると、カレーを頬張った直巳が顔を顰めた。そのまま咀嚼し、飲み込んで、