あの橋の下の暗がりで、『今』に続く君を思う

「なんだそれ、喧嘩売ってんのか」
「『夜』と言えば、あまり帰りが遅いと親御さんが心配するかな?」

 泉が言いながらこちらを向いた。仁愛が「大丈夫です」と答えると、「良かった」と言って横に置いた紙皿を取る。

「そういうことでね、藤野くん。私たちはこれから夕食にするから、また明日ね」
「おい勝手に話終わらせんな!」
「君はもう帰った方がいい」
「帰るってすぐそこだろ! 見えてる!」
「君、夕食まだなのかい?」
「? いや、さっき蕎麦食って来たけど——」
「聞いたかい? 梛木さん。この男、女の子を待たせて一人で夕食済ませて来たって」
「やっぱお前喧嘩売ってんだろ!」

 直巳がギリギリと歯軋りをして、泉は素知らぬ顔で米をよそい始める。仁愛は二人を交互に見やり、思わず「ふふっ」と笑ってしまった。

 直巳が不機嫌そうな声で「何笑ってんだ」と尋ねる。

「いや、ごめん、なんでもない。……ふふっ」
「どう見てもなんでもなくないだろそれ!」
「なんか、ちょっと……ふふっ……あんたたち仲良いなって、思っただけ、で……あはは!」
「お前はなんだ、泉に見え透いた嘘のつき方でも教わってたのか?」

 幼い頃から家族はずっとあの調子で、塾やら何やらで遊びの誘いを断った結果ほとんど友人ができず、同じ境遇の生徒が集まる北高に入ってからは、彼らの価値観に馴染めず孤立した。

 そんな人生を送ってきた仁愛にとって、親しげな彼らの会話は眩しくて、そこに自分がいることが嬉しくて少し泣きそうになる。

「カレー、泉さんがあんたの分も用意してくれてたけど、食べて来たなら要らない?」

 尋ねると、直巳はグッと顔を顰め、ボソボソした声で「要る」と答えた。

     *

 火が消えた焚火台を囲んで座り、カレーの皿を取る。仁愛が二口目を頬張ったところで、直巳が「それで、お前何しに来たんだ」と尋ねた。彼のカレーは残り半分を切っている。蕎麦を食べてきたという話はなんだったのか。

「…………」

 仁愛はゆっくり咀嚼して考える時間を稼ぎ、

「……ハンカチ返そうと思って」