あの橋の下の暗がりで、『今』に続く君を思う

「いいや、そう言うほどではなかったんだけど、なんだろう……日々の優先順位が変わった、みたいな感じかな」

 泉がレトルトカレーの箱を開け、

「今はいいやと思って、気づけばこの歳だよ。振り返ってみると……今やるのも十分に楽しいけれど、あの頃やっていればもっと楽しかっただろうなと思う」

 しみじみと語った後、「だから、やりたいことを後回しにしてはダメだよ」と言ってウインクをした。

 それから米が炊けて、泉が鍋の湯にレトルトカレーのパウチを入れたところで、「おー」と向こうから直巳の声がした。

「まさか昨日の今日で来るとは……」

 彼は仁愛を見下ろしてため息をつくと、夜空を仰いで「で、何やってんだお前」と尋ねる。

「もう情報掴んだのか?」

 言われた仁愛ははたと気づく。

(そういえばあたし、こいつのことで何かわかったらまた来るって言ったんだった……どうしよう。なんかこれ、こいつに会いたくて来たみたいになってる……)

 だからと言って、ここで暮らす方法を調べに来たと答えるのも何かが違う。一体なんと説明したものか。

「仁愛、聞いてんのか」

 直巳が急かすように言う。考えがまとまらないまま仁愛が顔を上げたところで、「私に会いに来てくれたんだよ」と泉が口を開いた。直巳が「は?」と怪訝そうに。

「それでお喋りをしていたんだ。やっぱり若い人と話すのはいいね。パワーをもらえる」
「いや、どう考えても嘘だろそれ」
「なぜだい?」
「面識ないのにどうやって会いに来るんだよ」
「あー、君にはその方法が思いつかないのか。まだまだ若造だね」
「はあ? おい、泉、ふざけてないでちゃんと答えろ」
「さてと、そろそろ温まったかな」

 泉が作業に戻ってしまう。直巳はゲンナリした様子で、「おい、仁愛」とこちらを向いた。

「夜にこんなとこ一人でうろつくな。さっさと帰れ」

 仁愛が口を開く前に、泉が「私もいるから二人だよ」と割って入る。直巳はぐぬぬと顔を顰め、

「お前じゃなくて、俺は仁愛に言ってる」
「私が相手では会話で勝てないから彼女を狙うのかい? みっともないね。君の大好きな『大和魂』はどこへ行ったのか」