一時間経っても直巳は戻らず。泉が自分の腕を叩いて「蚊取り線香……」と独りごちて立ち上がった。同時に仁愛の腹がグウッと空腹を叫ぶ。
「あっ……」
仁愛が羞恥心から反射的に腹を押さえると、泉はそれについて何も言わず、「そろそろ夕食の支度をしようかな」と呟いて歩き出した。小屋へ戻っていく。
仁愛はどうしたものかと考えて、椅子とカバンを持って小屋の前で待った。中からガサガサと音がして、泉が「梛木さんは食品アレルギーとかある?」と尋ねる。
「ないです」
「嫌いな食べ物とかは?」
「それも、特に」
話しながら出てきた泉の手には、キャンプで使うような焚火台と網、それから飯盒。
「じゃあ、今夜はカレーにしようかな」
それはつまり、仁愛の分も用意してくれるということで。さっきから礼を言うタイミングが掴めないな、と考えた仁愛はふと気づく。
(そういえば泉さん、何かをしてあげる、的な言い方全然しないな)
それから、これまで出会った大人の言葉を思い出す。「勉強を教えてあげる」「食事を用意してあげる」「寝床を用意してあげる」「心配してあげる」——全て『あげる』でできていた。
だから息苦しかったのだろうか。——だから、今はうまく呼吸ができるのか。
「ご馳走になります」
言うと、泉は「レトルトだけどね」と笑って焚火台を置いた。
*
焚火台に炭を置いて火をつけて、米を洗って飯盒をセットして、もうすぐ炊けるというところで、レトルトカレーを温めるための湯を沸かす。
「なんか、キャンプみたいですね」
テキパキと作業を進める泉に仁愛が言うと、彼は「普通の河川敷生活とは少し違うかもね」と微笑む。
「昔からキャンプに憧れていてね、ずっとこういうのをやってみたかったんだ」
「ここに来るまでやらなかったんですか?」
「うん。君くらいの歳の頃は、『大人になったらキャンプ道具一式買って毎週出かけるぞ』とか思っていたんだけど、就職してからは仕事ばかりでね」
「ブラック企業ってやつですか?」
「あっ……」
仁愛が羞恥心から反射的に腹を押さえると、泉はそれについて何も言わず、「そろそろ夕食の支度をしようかな」と呟いて歩き出した。小屋へ戻っていく。
仁愛はどうしたものかと考えて、椅子とカバンを持って小屋の前で待った。中からガサガサと音がして、泉が「梛木さんは食品アレルギーとかある?」と尋ねる。
「ないです」
「嫌いな食べ物とかは?」
「それも、特に」
話しながら出てきた泉の手には、キャンプで使うような焚火台と網、それから飯盒。
「じゃあ、今夜はカレーにしようかな」
それはつまり、仁愛の分も用意してくれるということで。さっきから礼を言うタイミングが掴めないな、と考えた仁愛はふと気づく。
(そういえば泉さん、何かをしてあげる、的な言い方全然しないな)
それから、これまで出会った大人の言葉を思い出す。「勉強を教えてあげる」「食事を用意してあげる」「寝床を用意してあげる」「心配してあげる」——全て『あげる』でできていた。
だから息苦しかったのだろうか。——だから、今はうまく呼吸ができるのか。
「ご馳走になります」
言うと、泉は「レトルトだけどね」と笑って焚火台を置いた。
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焚火台に炭を置いて火をつけて、米を洗って飯盒をセットして、もうすぐ炊けるというところで、レトルトカレーを温めるための湯を沸かす。
「なんか、キャンプみたいですね」
テキパキと作業を進める泉に仁愛が言うと、彼は「普通の河川敷生活とは少し違うかもね」と微笑む。
「昔からキャンプに憧れていてね、ずっとこういうのをやってみたかったんだ」
「ここに来るまでやらなかったんですか?」
「うん。君くらいの歳の頃は、『大人になったらキャンプ道具一式買って毎週出かけるぞ』とか思っていたんだけど、就職してからは仕事ばかりでね」
「ブラック企業ってやつですか?」
