あの橋の下の暗がりで、『今』に続く君を思う

 そんな格好でこんなところで寝ているのだから、彼はこの辺りで暮らすホームレスの一人だろう。しかし、それにしてはやけに荷物が少ない。というかほぼない。

 男の所持品と思しきものは、頭の横に置かれたズボンと同じ色の上着と、その横でグシャッと丸まっているベルトのようなものだけだ。

「おい、起きろ!」

 大和が男の背中を蹴った。仁愛はその行動にギョッとして周りを見るも、依茉を含む皆は薄笑いを浮かべている。

 男が「んー……?」と弛緩した声を出し、むくりと体を起こした。背中を掻きながらこちらを向く。

(けっこうな勢いで蹴られたのに、反応それ!?)

 仁愛が内心で驚愕するのをよそに、男が「なんだぁ?」と後ろ頭を掻く。周囲を見渡して首を傾げる様は、状況を全く理解していないよう。

(逃げなきゃとか思わないの!?)

 見たところ、男の年齢は大和と同じか少し上。目つきが悪い粗暴な印象の顔立ちで、くあっとあくびをする様は昼寝から目覚めた野良犬のよう。

 男が胡座をかいて大和を見上げ、「なんか用か?」と尋ねた。大和が「おい、聞いたか?」と仲間を振り返り、皆が失笑を漏らす。

「この状況で『なんか用か?』だとよ。社会のゴミは状況把握もままならない馬鹿らしい」

 嘲笑を含む彼の言葉に、男が「社会の、ゴミ……」と独りごちる。宙に視線を動かし、何かを思い出そうとしているよう。

 仁愛は不安が現実になった現状を前に、「や、やめようよ」と大和に言った。皆の笑い声がぴたりと止み、大和が「はあ?」と片眉を上げる。

「なんで?」

 突き放すような声色に、仁愛は肩にかけたスクールバッグの紐を無意識に握り締める。

「こ、この人を、ボコろうって話でしょ、これ。やめた方がいいよ、警察沙汰になったら——」
「何言ってんだ。これは慈善活動だぞ。それに、今まで何度もやったが、警察沙汰なんか一度もない」
「でも……」
「こんなゴミがどうなろうと、社会は気にしないってことだ」

 大和がニヤリと笑い、男を見る。仁愛が食い下がろうと口を開いたところで、依茉がその肩をポンと叩いた。

「何、仁愛。あんた、いい子ちゃんに戻ることにしたの?」

 その言葉に、仁愛の背中をぞわぞわしたものが這い上がる。