あの橋の下の暗がりで、『今』に続く君を思う

 佐藤が「夏休みに入る前に提出してね」と言ってプリントを差し出してくる。仁愛は黙ってそれを受け取り、足早に教室を出る。

 カバンにプリントをぐしゃっと押し込み、廊下を駆け出した。

     *

 七月に入ってから始めたバイトは、駅前の大通りを脇道に入ってしばらく歩いた先にある、個人経営の小さな弁当屋のレジ担当。客は少なく、ほとんどの時間を店長の山田とお喋りをして過ごす。

 学校を出た仁愛が無意識にバイト先へ向かおうとしたのは、そこが居心地のいい場所だから。今日はシフトが入っていないことに気づいて残念に思うのは、進路の愚痴を山田に聞いて欲しかったから。

 途中まで歩いて足を止め、そのまま駅に行って時間を潰すか、さっさと帰って自室に閉じこもるか考えて、

(そうだ、図書館で直巳のこと調べよ)

 内心で呟き、踵を返した。

     *

 平日の昼間ということもあってか、市立図書館は閑散としていた。入り口近くの新刊や雑誌のエリアを抜け、奥の書架に歴史関係の棚を探す。

『歴史・伝記・地理』の表示を見つけて細い通路に入り、太平洋戦争にまつわるタイトルに目を走らせる。

(うーん……とりあえずこれと、これ……)

 数冊を取ってテーブルと椅子が並ぶ読書エリアへ。座り、一冊ずつペラペラとめくっていく。

 集中することしばらく。空腹を覚えてふと窓の外を見ると、景色が夕焼けに色づき始めている。スマホを確認するが、母からのメッセージはなし。

(いっつもあれこれ口うるさく言うくせに、帰り時間には何も言わないんだよね。前に黙って依茉(えま)たちと夜遅くまでバーベキューした時も、帰ったら二人とも普通に寝てたし)

 こういうところが、やはり子供のことなどどうでもいいのだなと思わせる。他人に見せる用の面だけ取り繕い、それ以外のところは何もしない。

(帰りたくないな)

 結局閉館時間まで粘ったが、直巳に関する情報は見つからず。仁愛はカバンを持って図書館を出た。時刻は午後五時を過ぎたところ。