あの橋の下の暗がりで、『今』に続く君を思う

「それ持ってる奴よく見かけるな。なんなんだそれ」
「スマホだよ。電話したり、遊んだり、調べ物したり、色々できる機械」
「へえ。そんなもんあるのか」

 こちらへ身を乗り出した男が、スマホの画面を覗いて感心した風に頷く。仁愛が「それで、名前は?」と尋ねると、

藤野(ふじの)だ。花の『(ふじ)』に、野原の『()』」
「ふ、じ、の……下の名前は?」
直巳(なおみ)。直線の『(ちょく)』に干支の蛇の『()』」
「な、お、み……なんか女の子みたいな名前だね」
「字ぃ見ろ。立派な男の子の名前だ」

 入力して検索。結果にずらっと並んだのは、同姓同名のSNSアカウントやブログページだけ。男——直巳が「どうだ?」と尋ねてくる。仁愛は結果ページをスクロールして、

「うーん……ダメ、全然ない」
「なんだ。スマホとやら、役に立たないな」

 直巳は大して期待していなかったのか、軽く言ってブランコを漕ぎ出した。頭上の付け根の部分がキーキー音を立てる。

 仁愛は彼の名前がマイナーだからだと思いつつ、言葉にはしない。他の検索手段を考える。

 戦争関連の書籍を探せば載っているだろうか。彼は海軍航空隊の所属だと言っていたから、それを扱う専門書とか。

(いや、そもそも、あたしがそこまでして調べる必要はないけど……)

 ふと自分の思考を不思議に思い、横目に直巳を盗み見る。ぼんやりと夜空を眺めてブランコを漕ぐ彼は、自分が帰るまでここにいるつもりなのだろうか。

「……ちょっと、他に調べる方法ないか考えてみる」

 言うと、直巳が「どうして?」とこちらを向いた。——なぜお前が調べるのか、と尋ねている。

「気になるから調べるだけ」

 仁愛は言いながら立ち上がった。カバンを肩に掛けたところで、直巳もまた立ち上がる。

「帰るのか?」
「うん。あんたいつもあの橋の下にいるの?」
「ああ。大体は」
「じゃあ、何か結果出たらまた来るわ」

 仁愛が歩き出すと、「なあ」と直巳の声が背中にかかる。

「俺、お前の名前まだ聞いてない」