あの橋の下の暗がりで、『今』に続く君を思う

「零戦より速いし、二十ミリ砲が四門ついてる。航続距離は機体が軽い零戦に劣るが、頑丈で、空戦フラップがついてるから小回りがきく」

 どこか嬉しそうな彼の声色は、戦闘機マニアが自分の好きな機体を語るそれとは少し違う気がする。長年の相棒を讃えるような、親友を紹介するような声色。

 どうしてこんなことで、と思いつつ。仁愛はストンと納得してしまった。彼は嘘をついていない。本当に八十年前からここに来たのだ、と。

 そして、思う。

(今のあたしと同い年で海軍学校……防衛大学校みたいなとこ?に入って、二十二歳でたくさんの隊員を率いて戦場に……あたしは進学したとして、二十二歳は新卒。やるべきことも、どこに向かうかもわからないまま社会に出たとこ)

 なんとなく、羨ましいような気分になった。この時代に来る前の彼は、「この人生を続けることに意味はあるのか」などと考える暇などなかっただろう。——悩まずに生きていた。

 それから、自らの思考の不適切性に気づく。

(いや、違うよ。戦時中の人はみんな、生きるか死ぬかの大変な思いをしてた。その先に今の豊かな時代がある。あたしが当時の人を羨ましいと思うなんて——)

 ふと、「おい、聞いてんのか」と男の声。いつの間にか考え込んで、彼の言葉を聞き逃していたらしい。

「えっ、何?」

 尋ねると、男は「だからぁ」と言いながら太もものポケットに手を突っ込み、

「変なことに巻き込んで、悪かった」

 日本史の教科書を取り出し、こちらへ差し出す。仁愛はそれを受け取りながら首を傾げた。

「変なことって?」
「俺が明日取りに来いって言ったから、お前は来た。それであいつらと鉢合わせて、怪我した。あいつらが用があったのは俺で、お前じゃない」
「あたしの間が悪かったって話になってなかったっけ?」
「それはまあ、あるが……元凶はこれだろ」

 思えば、知人でもなんでもない彼に、仁愛の怪我の手当てをする道理などない。それなのにここまで一緒に来たのは、軽口を叩きながらも罪悪感を覚えていたからか。

(全然そんなことないんだけど……『大丈夫だよ』って言ったらこの人の責任を認めるみたいで嫌だし、『違うよ』って言うのもなぁ……)

 仁愛はなんと応えるべきか考えて、

「その服、戦闘機に乗る時のやつだよね? どうしてそんな大きいポケットついてるの?」

 意図的に話題を逸らすと、案の定、男は「俺の話聞いてたか?」と呆れたような顔になる。仁愛は「うん」と答え、「で、なんで?」と続け、