あの橋の下の暗がりで、『今』に続く君を思う

 仁愛はなんと答えるべきか迷う。正直なところを言うべきか、本音を隠して適当な共感を返すか。——やはり、正直であるべきだろう。
「ごめん」

 言うと、男は「ハハッ」と乾いた笑みを溢して俯き、

「ちょっと……知らない単語が多過ぎて、話がよくわかんなかった」

 仁愛が続けた言葉に、「はあ?」言って顔を上げた。

「シデンって、戦闘機のこと? あんたはそれに乗って……Pなんとかって何?」
「……お前、頭いい学校通ってんじゃなかったか」
「進学校行ってたってさ、知らないことは知らないよ」
「いや、それにしたってお前……文脈読むとか、なんかあるだろ」
「は? 何、馬鹿にしてんの?」
「馬鹿にはしてないが……融通の利かなさに驚愕はしてる」

 呆れたような、がっかりしたような物言いに、仁愛はムッとして言い返す。

「あんたが専門用語並べるからいけないんでしょ! あたしのこと子供扱いするなら、子供にもわかるように説明してよ!」

 それを聞いた男は、「つまり子供扱いはアリと?」と独りごち、

「俺は戦闘機乗り。任務に出た先で変なことが起こって、気づいたら八十年後の『今』にいた。以上」

 つらつらと要約を語った後、「で、信じるのか、信じないのか」と尋ねた。

「……わかんない」
「なんだそれ」
「だってさ……八十年前って、太平洋戦争のことでしょ? 太平洋戦争の戦闘機って零戦じゃないの? シデンって何? 聞いたことないよ」
「お前もそれ言うか……なんで零戦知ってて紫電は知らねえんだ。どうなってんだこの時代」
「『も』って?」

 仁愛が尋ねると、男は深いため息をつき、「瀬川……あの河川敷に住んでる奴も、最初同じこと聞いてきた」と答える。

「色の『(むらさき)』と電気の『(でん)』、改めるの『(かい)』で紫電改だ。零戦の実質上の後継機」
「なんで『改』? 普通の紫電もあるの?」
「ああ。初代紫電はクソ機体だったがな」
「『改』はいい感じなの?」

 仁愛の問いに、男は「もちろん」と誇らしげな顔で答える。