あの橋の下の暗がりで、『今』に続く君を思う

 自認・海軍航空隊の男は、全力で反撃する大和を軽々と伸してしまった。残った仲間も同様に。女子は三人目が殴られたところで逃げ出した。

 鼻血を出したり、腹を押さえて蹲ったり。痛みに呻く大和たちを見下ろし、男はぐるっと肩を回す。

「なんだぁ、もう終わりか?」

 拍子抜けした様子で言い、「気概を見せろ」と続ける。大和たちは悲鳴を上げて、半ば這うようにして逃げ出した。

 一連の流れを座ったまま呆然と見つめていた仁愛(にいな)は、男がこちらを振り返ったところで我に返る。

(ヤ、ヤバい!)

 反射的に逃げようとするが、足がすくんで立てない。そうこうしているうちに男が近づいてきて目の前にしゃがんだ。仁愛の右の手首を掴む。

「は、離して!」

 仁愛は咄嗟に振り払おうとするが、動かそうとした手はびくともしない。男は仁愛の手のひらをじいっと見つめ、立ち上がった。

「立てるか?」

 言いながら手を引く。仁愛が半ば引き上げられる形で立つと、手首を掴んだまま歩き出した。向こうに放り出されていた仁愛のカバンを拾い、河川敷を上がる階段の方へ。

「ちょっ、何!」
「お前、間ぁ悪すぎだろ。なんだ、不幸体質か」
「離してってば!」
「離したらどうするんだ?」
「逃げるに決まってんでしょ!」

 男が階段を上り、仁愛は手を引かれてそれに続く。大和たちを伸した時の彼の動きと比較すると、やけに緩慢な歩調。

 市民プールの方へ歩き出したところで、男が「ハハッ」と笑った。

「いい子ちゃんのお嬢様女学生に、さっきのはちと刺激が強すぎたか」

 その物言いに仁愛はムッとして、

「あたしは『いい子ちゃん』でも『お嬢様』でもないよ!」
「ってことにしたくて、ワルに憧れて、夜中に出歩いたり浮浪者狩りに顔出してビビったりしてるってわけか」
「全然違うし。そもそも『お嬢様』ってどっから出てきたのよ」

 男が半分だけ振り返り、「その制服」と言ってまた前を向く。