(……道に迷わなくて済む。……どうして生きていなきゃいけないのかなんて、考えずに済む)
優等生をやめて、自分が欲しいものがわからなくなって、未来に何も望まなくなってから、仁愛はずっと考えている。
生きていると嫌なことがある。苦しいことがある。悲しいことがある。それらを耐えて進んだ先に、自分は何を得られるのか。——得たいものがないのに、耐えなければならない理由はあるのか。
雨雲が去った後の晴天に何の魅力も感じない自分が、土砂降りの雨の中を歩き続ける意味などあるのだろうか、と。
*
家を飛び出してしばらく。駅向こうの商店街を歩いていると、「あれ? 仁愛じゃん」と依茉の声がした。
振り返ると、一昨日の川へ行ったメンツがカラオケ店へ入るところ。何人かが顔に絆創膏やガーゼを貼っている。
「何、学校サボり?」
依茉が仁愛の制服を指して尋ねる。仁愛は「う、うん」と答えながら、彼女の背後の大和を視界の端に捉えた。仲間とにこやかに談笑しつつ、こちらへチラリと冷たい視線を向ける。
(やっぱ、逃げたのマズかったかな)
仁愛が内心で独りごちたところで、依茉が「これからカラオケなんだけど、一緒にどう?」と尋ねた。仁愛は笑顔を取り繕い、
「これから買い物したいから、また今度!」
言うと、依茉は「ああ、そう」と答え、仲間たちと一緒に店へ入って行った。
それから仁愛は適当に時間を潰し、夕方になってから河川敷へ向かった。そろそろ読み終わったかな、などと考える自分にツッコミを入れる。
(いや、何、『そろそろ』って。あいつに合わせてやる必要とかないでしょ)
考えながら階段を降りる。草むらを歩き出したところで遠くからボスッと音がして、向こうに見える橋の下に数人の人影があることに気がついた。
「おら、起きろ!」
大和の声。金髪の人影が、橋脚の脇の何かを蹴る。——『何か』と言うのはあまりに白々しい。大和が、寝ている自認・海軍航空隊の男を蹴った。
仁愛はそちらへ向かう足を止めない。男が「んー……なんだ」と気怠げな声で言い、迷惑顔で体を起こす。
優等生をやめて、自分が欲しいものがわからなくなって、未来に何も望まなくなってから、仁愛はずっと考えている。
生きていると嫌なことがある。苦しいことがある。悲しいことがある。それらを耐えて進んだ先に、自分は何を得られるのか。——得たいものがないのに、耐えなければならない理由はあるのか。
雨雲が去った後の晴天に何の魅力も感じない自分が、土砂降りの雨の中を歩き続ける意味などあるのだろうか、と。
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家を飛び出してしばらく。駅向こうの商店街を歩いていると、「あれ? 仁愛じゃん」と依茉の声がした。
振り返ると、一昨日の川へ行ったメンツがカラオケ店へ入るところ。何人かが顔に絆創膏やガーゼを貼っている。
「何、学校サボり?」
依茉が仁愛の制服を指して尋ねる。仁愛は「う、うん」と答えながら、彼女の背後の大和を視界の端に捉えた。仲間とにこやかに談笑しつつ、こちらへチラリと冷たい視線を向ける。
(やっぱ、逃げたのマズかったかな)
仁愛が内心で独りごちたところで、依茉が「これからカラオケなんだけど、一緒にどう?」と尋ねた。仁愛は笑顔を取り繕い、
「これから買い物したいから、また今度!」
言うと、依茉は「ああ、そう」と答え、仲間たちと一緒に店へ入って行った。
それから仁愛は適当に時間を潰し、夕方になってから河川敷へ向かった。そろそろ読み終わったかな、などと考える自分にツッコミを入れる。
(いや、何、『そろそろ』って。あいつに合わせてやる必要とかないでしょ)
考えながら階段を降りる。草むらを歩き出したところで遠くからボスッと音がして、向こうに見える橋の下に数人の人影があることに気がついた。
「おら、起きろ!」
大和の声。金髪の人影が、橋脚の脇の何かを蹴る。——『何か』と言うのはあまりに白々しい。大和が、寝ている自認・海軍航空隊の男を蹴った。
仁愛はそちらへ向かう足を止めない。男が「んー……なんだ」と気怠げな声で言い、迷惑顔で体を起こす。
