直巳の手紙を受け取った週の日曜日。仁愛は靖国神社の遊就館を訪れた。明治からの歴史を早歩きで進み、直巳の遺品の展示へ向かう。
そこには変わらず、ニカっと笑う直巳の写真があった。最終階級も戦死の日付も変わらない。一方で、変化が二つ。
日記が無くなっている。きっと、彼が沖に蹴りを入れたからからだろう。あるいは、彼自身が日記を破棄したか。——結局あの日記には何が書かれていたのか、仁愛は終ぞ知らぬまま。
それから、日記があった位置にお守りが置いてある。黒く汚れたお守り袋の元の色は白。『元気』の文字が刺繍されている。
(なんか……直巳の恥ずかしいものがなくなった代わりに、あたしがちょっと恥ずかしいんだけど)
おそらくこれは、手紙と一緒に箱に入っていたものだろう。仁愛としては、下手くそな自作お守りがこんなところに展示されているのは恥ずかしいが、直巳がこれを望んだのなら、それでいいと思う。
以来、仁愛は暇を見つけては遊就館を訪れた。半ば橋の下の代替。ここに来て、直巳のことを思い出す。
何度目かのある日、職員が「こんにちは」と声をかけてきた。人の良さそうな中年女性。「藤野中佐のご遺族ですか?」と尋ねてくる。
「よくこの展示を見に来られてますよね」
ふわりと微笑む職員に、仁愛は少し恥ずかしくなって後ろ頭を掻いた。——職員に覚えられてしまうほど、自分はここに来ていたか。
「いや、遺族ではないんですけど……」
「では、彼のファン?」
「……ファン?」
「彼、マニアの間では有名ですからね。飛行学生時代の無茶苦茶な飛び方とか、部下を守るために上官を怒鳴りつけたエピソードとか、破天荒で面白い、清々しい人だったと」
「へ、へえ……」
職員は直巳の写真を見上げ、
「そんな人が、僅か二十二歳で亡くなる。……悲しい時代でした。私たちはそれを忘れず、繰り返さないように生きていかなければなりません」
しみじみと語る横顔に、仁愛は親近感のようなものを覚えた。
それから少し雑談をして、職員が仕事に戻ろうとした時、
そこには変わらず、ニカっと笑う直巳の写真があった。最終階級も戦死の日付も変わらない。一方で、変化が二つ。
日記が無くなっている。きっと、彼が沖に蹴りを入れたからからだろう。あるいは、彼自身が日記を破棄したか。——結局あの日記には何が書かれていたのか、仁愛は終ぞ知らぬまま。
それから、日記があった位置にお守りが置いてある。黒く汚れたお守り袋の元の色は白。『元気』の文字が刺繍されている。
(なんか……直巳の恥ずかしいものがなくなった代わりに、あたしがちょっと恥ずかしいんだけど)
おそらくこれは、手紙と一緒に箱に入っていたものだろう。仁愛としては、下手くそな自作お守りがこんなところに展示されているのは恥ずかしいが、直巳がこれを望んだのなら、それでいいと思う。
以来、仁愛は暇を見つけては遊就館を訪れた。半ば橋の下の代替。ここに来て、直巳のことを思い出す。
何度目かのある日、職員が「こんにちは」と声をかけてきた。人の良さそうな中年女性。「藤野中佐のご遺族ですか?」と尋ねてくる。
「よくこの展示を見に来られてますよね」
ふわりと微笑む職員に、仁愛は少し恥ずかしくなって後ろ頭を掻いた。——職員に覚えられてしまうほど、自分はここに来ていたか。
「いや、遺族ではないんですけど……」
「では、彼のファン?」
「……ファン?」
「彼、マニアの間では有名ですからね。飛行学生時代の無茶苦茶な飛び方とか、部下を守るために上官を怒鳴りつけたエピソードとか、破天荒で面白い、清々しい人だったと」
「へ、へえ……」
職員は直巳の写真を見上げ、
「そんな人が、僅か二十二歳で亡くなる。……悲しい時代でした。私たちはそれを忘れず、繰り返さないように生きていかなければなりません」
しみじみと語る横顔に、仁愛は親近感のようなものを覚えた。
それから少し雑談をして、職員が仕事に戻ろうとした時、
