あの橋の下の暗がりに、『今』へ続く君を思う

『仁愛へ

 この手紙を書くことは、神崎が持ってた手紙でひらめいた。胡散臭い野郎だったが、この点は心から感謝したい。

 驚くべきことに、俺は空襲の一週間前に戻った。きっとお前のお守りのおかげだ。俺は仁愛様教に入信することにする。信徒一号だ。ご贔屓に頼む。

 家族が空襲を逃れた後のことはわからないが、お前が無事を願ってくれたからきっと大丈夫。そう信じてこの手紙を託す。

 沖への蹴りは完了してる。空での大暴れはまだだ。流石にそこから手紙を出すことはできないから、俺から結果を伝えることはできない。でもまあ、靖国に行けばわかるだろう。

 正直、迷ってる。あの予備機に乗らなければ、これまで通りに基地へ戻れるかもしれないから。お前に偉そうなこと言っといて、かっこわりいなぁ。

 だがまあ、俺は行くだろう。あの空の向こうでお前に会えたから。変に動いて、お前と出会ったのが無かったことになったら最悪だ。

 どうせこの戦争を生き残ったところで、八十年後は百歳越えのジジイだ。そこまで生きられるかわからんし、生きたとしてもヨボヨボで、一緒に河川敷に行くことはできない。

 だから俺は行く。死にに行くんじゃない。途中で止めてた運命を再開するんだ。これまでの全てを背負って、続きの先へ。

 そういえば伝え忘れたんだが、泉がカメラを出してきた日に撮ったお前の写真、あれは俺が持ってる。お前が作ってくれたお守りを海に沈めるのは気が引けるから、代わりに写真を持って行こうと思う。

 今も横に置いてる。お前が橋の下に来たいと言った気持ちが少しわかった。夢みたいな出会いだ。夢じゃなかったんだって、確かめたいよな。

 忘れろなんて言って悪かった。あれは、お前が変に過去に縛られたらダメだと思って言ったことで、今も、その考えは変わらないんだが、


 縛られない範囲で、覚えていて欲しい。俺がいたこと。俺たちがいたことを。地獄の蓋開けて戻った時に、「はじめまして」からやるのは大変だからな。

 と、いうわけで。しばしの別れだ。

 ちゃんと飯食えよ。危ないから夜の外出は控えろ。親父がクソなことしたらなんかどっか駆け込め。自分を大切に、身を守れ。生きていてくれ。

 それじゃあ、またな。

                        藤野直巳』



 涙がこぼれ落ちそうになって、仁愛は手紙をテーブルに置いた。袖で目元を拭っていると、「大丈夫?」と清水の声。仁愛が「はい」と答えると、

「こんなこと、あり得ないとは思うのだけど……あなた、直巳さんと知り合いなの?」

 清水が不思議そうな顔で問う。仁愛は涙を拭って顔を上げ、

「あたしも、あり得ないと思うんですけど……あり得ないけどあった話、聞いてもらえますか?」

 それから仁愛は清水と話をして、最後に連絡先を交換して別れた。