「なんだその距離感」
「あ?」
「えへ……」
食堂で西宮と並んで座っていたら、後から合流した島田に妙な顔をされる。
なんだも何も、ただ並んで座っているだけだ。
俺が西宮の椅子の背凭れに腕を掛けて、俺と西宮の膝が触れ合っているだけ。
ただそれだけ。
加えて言えば、西宮の手は俺の組んだ足の上にあるけれど、それは西宮のスマホ画面をお互いが見えやすくする為で。
だから何もおかしくない。
女の子相手なら俺はいつも腰を抱いてたぞ、とまで思う。
「いや……二人がいいならいいんだけど」
「おー」
「はい!」
西宮の元気な返事に、島田へ向けていた視線を西宮へと移すと、西宮は俺に可愛い笑顔を見せてくれる。
そうだよな、これだよな。
西宮にはずっとこの笑顔で居てほしい。
あんな困り笑いなんて、俺の前ではしてほしくない。
だから椅子の背凭れに掛けていた腕を持ち上げて、西宮のうなじを撫でると西宮は顔を真っ赤にするから、俺は満足して笑う。
「いや事後かよ!!」
「はあ?」
食堂でデカい声出すんじゃねぇよ、と島田を見れば、周囲からも沢山の視線が飛んできており、島田はペコペコと謝っていた。
「女の子の紹介まじで要らなそうだな……俺変なこと言っちゃったかなぁ……」
向かいに座る島田の小さな声は途切れ途切れで聞こえていて、やっぱり西宮の声はよく通るのだな、と思う。
俺は俺の膝に上にあるままだった西宮のスマホに触れて、好きだ、と検索窓に打ち込む。
それを見た西宮がズルズルと椅子から崩れ落ちていくから、俺は笑った。
いつも直ぐに真っ赤になる西宮を可愛いなと思う。
崩れていく西宮に気付いた島田は、俺の笑顔と西宮の赤面を交互に見て、何かを察したのか「おめでとう……」と呟いていて。
「付き合っちゃいないぞ」
「は!?」
そこはきちんと正しておかなくてはいけないから、言うと島田はまた大声を上げて、西宮の崩れていく体はピタリと止まった。
俺たちは付き合ってない。
付き合っちゃいけないんだ。
だって付き合ったら、終わりが来るだろ。
俺は今、多分初めて人を好きになっている。
人に取られたくなくて、失いたくなくて、愛しくて仕方ない西宮に。
だから失わない為に、付き合わない。
ずっと傍に居てほしいから、付き合わない。
真面目な顔して頷く俺に、島田は困惑の表情を西宮へと向けていた。
俺と西宮は、お互い講義がない時どこかのベンチや休憩スペースで過ごすことが増えた。
今日は雨だったから室内に居て、西宮から、俺が酔っていた時に話した内容を改めて教えてもらっていた。
「実はあの時に、自己紹介は済ませてたんです」
「ああ……だから食堂で名乗った時テンション低かったのか。悪い、本当に。もう酒は飲まない」
「いえいえ、酔ってる先輩にいろいろ話した俺が悪いんです」
そう言ってまた困り笑いをするから、その両頬を片手で掴んで目を見る。
「そうやって我慢して受け入れなくていい。嫌なことは嫌って言えって言ってるだろ」
「ふぁい」
タコみたいになった口から了承の返事が出たから離してやる。
ここが構内でなければキスしていたのになと思う。
「あとは何話した?」
「あとは……でも、そのくらいですかね。帰りはタクシーで送ったくらいです」
「は!?じゃあ俺が無事家に着いてたのってお前のお陰か」
「たぶん……?」
えへ、と笑われるから、その手を握って撫でる。
「ありがとう、タクシー代払う」
「いえいえいいですよ、先輩が無事で何よりです」
「いやでも……ああ、じゃあうどんは俺の奢りな」
「……はい!」
ちょっと申し訳なさそうに、それでも嬉しそうに笑う西宮に、俺も微笑む。
それからその笑顔を素直に可愛いと思えて、俺は少し息を吐く。
西宮によく嫌なら嫌と言えと言っているけれど、可愛いと思った時には我慢せず可愛いと思う。
それがどれだけ生きやすいか、ここ最近になってよく感じる。
西宮はゲイだと言ったけれど、俺はまだよく分からなくて。
好きなのは女の子かもしれない。
けれど、今目の前で女性と西宮が脱いでいたら、多分、俺の視線は西宮に釘付けになるのだと思う。
だから俺の好きは、今西宮にしかなくて。
それさえあればいいか、と思えるから、俺は恵まれているのかもしれない。
西宮には説明して、いやいや男同士だろ、等の発言の裏には、複雑な葛藤があってのことだったと理解はしてもらったけれど、今後の発言は気を付けようと思う。
俺の常識が、他人や西宮を傷付けてしまうのはもう嫌だったから。
西宮の手を取ったまま心の内で決意すると、何も知らない西宮はじっと俺を見ている。
「あんま見てるとキスするぞ」
「っあ、っと、へへ」
忠告したのにまだ見てくるから、俺は仕方なく。
「いたあっ!」
デコピンをかました。
「ここじゃしないよ」
ただでさえいちゃついてるやつは晒しあげられるんだ。
それが男同士なら、多分、尚更。
俺は遊びで西宮を好きなんじゃないし、西宮も多分、本気でいてくれてると思うから。
周囲におもちゃにされて消費されるのは嫌だった。
「なあ、週末。うち来る?」
「えっ!?」
「何もしない、かどうかは西宮次第だけど」
「……あ、あの……ぜひ……!」
顔を真っ赤にした西宮が頷くから、俺も頷いて笑った。
「まてまてまてまて!!」
「はっ、はい!」
西宮をうちに招いて、並んで座って、映画を観て。
途中のラブシーンで俺たちもキスをして、人目を気にしなくていいのは良いな、って囁いて笑って、西宮の肩を抱いて。
真っ赤になって体をカチコチに固くしている姿を可愛く思いながら、エンドロールまでしっかり観た後。
西宮の顔を覗き込んで、微笑んで、キスをして、舌を絡めて。
西宮が可愛い声を出すから、俺もノってきて、西宮の素肌に触れて。
それなのに、気が付けば俺が押し倒されていて、涙が出るほど気持ちいいキスに、俺の方が溶かされていて。
お互い触れ合うまでは良かったけれど、俺の後ろまで触れようとするから飛び起きた。
「まっ、待て、お前どっちだ!?」
「ど、どっちって……!?」
「入れ……っと、だから、上か下か!」
「あ、えと、上……?」
「は、はあ!?」
とりあえずパンツは履かせていただいて、慌てて西宮から距離を取る。
待て、まさかそうとは思っていなくて、全くそちらの知識がない。
ないどころか心の準備もしていなくて、そうしたら、あの、全ておかしなことになるぞと思って。
「おま……俺のどこが好きなんだよ!」
「ええ!?」
俺はてっきり、俺が頼りになるとか、俺の年上の余裕さとか、そういう面を好かれたのだと思って。
だからちょっと無理してお兄さん感を演じてたんだぞこっちは!
震える指で西宮を指せば、西宮はちょっと照れたあと、可愛い笑顔を見せて。
「酔ってふにゃふにゃの先輩が、可愛く俺の手を握って……『俺好きって言われたらすぐ好きになっちゃうんだ、でも別れようって言われても全然悲しくなくて、俺好きが何なのか分からない』って、涙を零していたのが……可愛くて可愛くて……さっき俺を守ってくれた人が、本当はこんなに弱いんだって知ったら俺もう、先輩を好きな気持ちが止められなくて……じゃあ俺が、先輩、好きになってもいいですか?って聞いたら、『いいよ』って、笑ってくれたから……」
「……は?」
その場面を思い出しているのか、照れて、うっとりとしている西宮に、俺は唖然とする。
待て、俺がこれまでに聞いてた話と全然違くないか?
俺が可愛く?涙を零して?嘘だろ??
しかも、いいよ、ってなんだよ、なんなんだよ俺!
いよいよパン一も恥ずかしくなってきて、夏の間の掛け布団として使っているタオルケットを手繰り寄せる。
けれど釣られるようにして西宮まで寄ってくるから、手をのばしてそれ以上来られないようにするのに、全然止まらなくて。
「ま、まて、まてまて」
「先輩、俺っ、もう」
「っ、待て、頼む、楽にしてやるから、こらっ」
俺はお前の声に弱いんだって!
切ない声を出されて、腕の力が抜けた隙に押し倒されて、そこからはもう、西宮の独壇場で。
「……先輩」
招いた俺が馬鹿だった。
食う気が食われて、俺はその日、微塵も動けなくなってしまった。
「あ?」
「えへ……」
食堂で西宮と並んで座っていたら、後から合流した島田に妙な顔をされる。
なんだも何も、ただ並んで座っているだけだ。
俺が西宮の椅子の背凭れに腕を掛けて、俺と西宮の膝が触れ合っているだけ。
ただそれだけ。
加えて言えば、西宮の手は俺の組んだ足の上にあるけれど、それは西宮のスマホ画面をお互いが見えやすくする為で。
だから何もおかしくない。
女の子相手なら俺はいつも腰を抱いてたぞ、とまで思う。
「いや……二人がいいならいいんだけど」
「おー」
「はい!」
西宮の元気な返事に、島田へ向けていた視線を西宮へと移すと、西宮は俺に可愛い笑顔を見せてくれる。
そうだよな、これだよな。
西宮にはずっとこの笑顔で居てほしい。
あんな困り笑いなんて、俺の前ではしてほしくない。
だから椅子の背凭れに掛けていた腕を持ち上げて、西宮のうなじを撫でると西宮は顔を真っ赤にするから、俺は満足して笑う。
「いや事後かよ!!」
「はあ?」
食堂でデカい声出すんじゃねぇよ、と島田を見れば、周囲からも沢山の視線が飛んできており、島田はペコペコと謝っていた。
「女の子の紹介まじで要らなそうだな……俺変なこと言っちゃったかなぁ……」
向かいに座る島田の小さな声は途切れ途切れで聞こえていて、やっぱり西宮の声はよく通るのだな、と思う。
俺は俺の膝に上にあるままだった西宮のスマホに触れて、好きだ、と検索窓に打ち込む。
それを見た西宮がズルズルと椅子から崩れ落ちていくから、俺は笑った。
いつも直ぐに真っ赤になる西宮を可愛いなと思う。
崩れていく西宮に気付いた島田は、俺の笑顔と西宮の赤面を交互に見て、何かを察したのか「おめでとう……」と呟いていて。
「付き合っちゃいないぞ」
「は!?」
そこはきちんと正しておかなくてはいけないから、言うと島田はまた大声を上げて、西宮の崩れていく体はピタリと止まった。
俺たちは付き合ってない。
付き合っちゃいけないんだ。
だって付き合ったら、終わりが来るだろ。
俺は今、多分初めて人を好きになっている。
人に取られたくなくて、失いたくなくて、愛しくて仕方ない西宮に。
だから失わない為に、付き合わない。
ずっと傍に居てほしいから、付き合わない。
真面目な顔して頷く俺に、島田は困惑の表情を西宮へと向けていた。
俺と西宮は、お互い講義がない時どこかのベンチや休憩スペースで過ごすことが増えた。
今日は雨だったから室内に居て、西宮から、俺が酔っていた時に話した内容を改めて教えてもらっていた。
「実はあの時に、自己紹介は済ませてたんです」
「ああ……だから食堂で名乗った時テンション低かったのか。悪い、本当に。もう酒は飲まない」
「いえいえ、酔ってる先輩にいろいろ話した俺が悪いんです」
そう言ってまた困り笑いをするから、その両頬を片手で掴んで目を見る。
「そうやって我慢して受け入れなくていい。嫌なことは嫌って言えって言ってるだろ」
「ふぁい」
タコみたいになった口から了承の返事が出たから離してやる。
ここが構内でなければキスしていたのになと思う。
「あとは何話した?」
「あとは……でも、そのくらいですかね。帰りはタクシーで送ったくらいです」
「は!?じゃあ俺が無事家に着いてたのってお前のお陰か」
「たぶん……?」
えへ、と笑われるから、その手を握って撫でる。
「ありがとう、タクシー代払う」
「いえいえいいですよ、先輩が無事で何よりです」
「いやでも……ああ、じゃあうどんは俺の奢りな」
「……はい!」
ちょっと申し訳なさそうに、それでも嬉しそうに笑う西宮に、俺も微笑む。
それからその笑顔を素直に可愛いと思えて、俺は少し息を吐く。
西宮によく嫌なら嫌と言えと言っているけれど、可愛いと思った時には我慢せず可愛いと思う。
それがどれだけ生きやすいか、ここ最近になってよく感じる。
西宮はゲイだと言ったけれど、俺はまだよく分からなくて。
好きなのは女の子かもしれない。
けれど、今目の前で女性と西宮が脱いでいたら、多分、俺の視線は西宮に釘付けになるのだと思う。
だから俺の好きは、今西宮にしかなくて。
それさえあればいいか、と思えるから、俺は恵まれているのかもしれない。
西宮には説明して、いやいや男同士だろ、等の発言の裏には、複雑な葛藤があってのことだったと理解はしてもらったけれど、今後の発言は気を付けようと思う。
俺の常識が、他人や西宮を傷付けてしまうのはもう嫌だったから。
西宮の手を取ったまま心の内で決意すると、何も知らない西宮はじっと俺を見ている。
「あんま見てるとキスするぞ」
「っあ、っと、へへ」
忠告したのにまだ見てくるから、俺は仕方なく。
「いたあっ!」
デコピンをかました。
「ここじゃしないよ」
ただでさえいちゃついてるやつは晒しあげられるんだ。
それが男同士なら、多分、尚更。
俺は遊びで西宮を好きなんじゃないし、西宮も多分、本気でいてくれてると思うから。
周囲におもちゃにされて消費されるのは嫌だった。
「なあ、週末。うち来る?」
「えっ!?」
「何もしない、かどうかは西宮次第だけど」
「……あ、あの……ぜひ……!」
顔を真っ赤にした西宮が頷くから、俺も頷いて笑った。
「まてまてまてまて!!」
「はっ、はい!」
西宮をうちに招いて、並んで座って、映画を観て。
途中のラブシーンで俺たちもキスをして、人目を気にしなくていいのは良いな、って囁いて笑って、西宮の肩を抱いて。
真っ赤になって体をカチコチに固くしている姿を可愛く思いながら、エンドロールまでしっかり観た後。
西宮の顔を覗き込んで、微笑んで、キスをして、舌を絡めて。
西宮が可愛い声を出すから、俺もノってきて、西宮の素肌に触れて。
それなのに、気が付けば俺が押し倒されていて、涙が出るほど気持ちいいキスに、俺の方が溶かされていて。
お互い触れ合うまでは良かったけれど、俺の後ろまで触れようとするから飛び起きた。
「まっ、待て、お前どっちだ!?」
「ど、どっちって……!?」
「入れ……っと、だから、上か下か!」
「あ、えと、上……?」
「は、はあ!?」
とりあえずパンツは履かせていただいて、慌てて西宮から距離を取る。
待て、まさかそうとは思っていなくて、全くそちらの知識がない。
ないどころか心の準備もしていなくて、そうしたら、あの、全ておかしなことになるぞと思って。
「おま……俺のどこが好きなんだよ!」
「ええ!?」
俺はてっきり、俺が頼りになるとか、俺の年上の余裕さとか、そういう面を好かれたのだと思って。
だからちょっと無理してお兄さん感を演じてたんだぞこっちは!
震える指で西宮を指せば、西宮はちょっと照れたあと、可愛い笑顔を見せて。
「酔ってふにゃふにゃの先輩が、可愛く俺の手を握って……『俺好きって言われたらすぐ好きになっちゃうんだ、でも別れようって言われても全然悲しくなくて、俺好きが何なのか分からない』って、涙を零していたのが……可愛くて可愛くて……さっき俺を守ってくれた人が、本当はこんなに弱いんだって知ったら俺もう、先輩を好きな気持ちが止められなくて……じゃあ俺が、先輩、好きになってもいいですか?って聞いたら、『いいよ』って、笑ってくれたから……」
「……は?」
その場面を思い出しているのか、照れて、うっとりとしている西宮に、俺は唖然とする。
待て、俺がこれまでに聞いてた話と全然違くないか?
俺が可愛く?涙を零して?嘘だろ??
しかも、いいよ、ってなんだよ、なんなんだよ俺!
いよいよパン一も恥ずかしくなってきて、夏の間の掛け布団として使っているタオルケットを手繰り寄せる。
けれど釣られるようにして西宮まで寄ってくるから、手をのばしてそれ以上来られないようにするのに、全然止まらなくて。
「ま、まて、まてまて」
「先輩、俺っ、もう」
「っ、待て、頼む、楽にしてやるから、こらっ」
俺はお前の声に弱いんだって!
切ない声を出されて、腕の力が抜けた隙に押し倒されて、そこからはもう、西宮の独壇場で。
「……先輩」
招いた俺が馬鹿だった。
食う気が食われて、俺はその日、微塵も動けなくなってしまった。


