先輩、好きになってもいいですか。

『おはようございます。今日お昼一緒に食べませんか』
目が覚めると、今より一時間も前にメッセージを受信していて。
誰かと確かめるまでもなく、その内容で相手を察して笑う。
それから通知を押してアプリを開くと、まだ最初の挨拶を交わしただけのトーク画面に、先程のメッセージが追加されていて。
『いいよ。食堂でな』
そう返すと、二秒もしないうちに既読が付くからぎょっとした。
『はい』
返ってきたのは、そんなシンプルな反応。
けれど、続けて送られてきたスタンプがキラッキラに笑うキャラクターの笑顔で。
「っふ」
現実の西宮で簡単に想像ができて、思わず吹き出してしまった。
こんなメッセージ一つでここまで満たされた気持ちになるなんて。
……いや、別に満たされてはいない。
操作に不慣れで広告を踏みまくっていた西宮が、こうしてちゃんと俺にメッセージを送って、俺からの返信を確認して、さらに俺にちゃんと返信ができていることに感動しただけで。
これは教え子の成長を喜ぶようなもので、だからきゅんとかではなくて。
いやきゅんってなんだよ寒いな。
自分自身にドン引きして、そこでメッセージアプリを閉じる。
今日も今日とて大学だ。
変な思考に時間を取られている場合ではない。
反動を付けて勢いよく起き上がれば、少し暑い室温に夏の気配がした。

「先輩!」
「おー、お疲れ」
今朝食堂でな、と言った通り、西宮はちゃんと食堂に現れて。
あのスタンプ同様の笑顔を見せているから、胸が騒ぐ。
これはその、あのスタンプと同じ笑顔だっていう、答え合わせができたことによる反応で。
決してかわ……いいとかそんなんじゃないから勘違いしないでほしい、俺の脳。
「先輩今日は何食べますか?」
「うどん」
「うどん好きですねぇ」
隣に立つ西宮ににこにことされるから、若干居心地が悪い。
安いし、美味いし、腹が満たされるんだからいいだろ。
俺がいつも頼むのは『ミニうどん』という名前だけれど、普通の一人前よりちょっと少ないくらいで、ちゃんと量があるから満足感が高い。
何より食べすぎると眠くなるし。
俺にはこのくらいがちょうどいい。
うちの大学は基本、ミニ以外が物凄い量だからな、と食品サンプルを見遣る。
スポーツ推薦で入学してくる人も多いからか、普通が普通じゃない量をしていた。
「俺は日替わり定食にします」
「今日のメイン何?」
「鯖の味噌煮ですって」
「へぇ、良いな」
俺は人の頭でまだメニューは見えないけれど、背の高い西宮は既に張り出されている日替わり定食の内容が見えているらしい。
俺も別に背が低い方ではないけれど、西宮は明らか他より背が高くて、こういう時背が高いと良いよなと思う。
あとなんかこう、傍に居るだけで安心感がある。
守られ……ではなくて、その、壁として。
そう、壁として優秀だよな。
「てかうどん食わねぇの?」
「うどんですか?」
「そう。この前俺のうどんじっと見てたろ。食いたかったなら美味い店あるから今度行くか?」
どんどん捌けていく注文の列に並びながら、ふと思い出したことを聞けば首を傾げる西宮。
なんだもう忘れたのか?と、この前のほら、島田も居た時の、と補足しようとしたら、「あっ」と西宮から声が漏れるので、思い出した様子で。
「あ、あの、あれは……その……」
「なんだよ」
「……残り食べましょうかって、俺、言いましたけど……」
「うん」
「それって先輩と、か、間接キス……になっちゃうと思って……」
「はあ??」
うどんで??と疑問まみれの視線を向けると、「お箸とか……」って真っ赤な顔をした西宮から小さな声が返ってくるから、釣られて俺の顔まで熱くなるのが分かる。
「……変態」
「う……でも、あの、先輩とうどん食べに行きたいです」
「…………別々のうどんな」
「はい……」
先ほどより背が縮んだように見える西宮が、小さな、けれどよく聞こえる声で返事をするから、俺まで変にダメージを負ったまま飯に行く約束が成立する。
グイグイ来る割にキスの距離とか、間接キスに照れるこいつがよく分からなかった。
釣られて赤面している、俺も俺だ。