先輩、好きになってもいいですか。

「お前また別れたの?」
「おー」
またとは失礼だな、と思いつつ、けれど事実なので反論はできない。
今朝起きたら『別れましょう』と彼女からメッセージが来ていて、『分かった』と返して、それで俺たちの関係は終わりだった。
「別れたくないとか思わないわけ?」
「相手に気がないなら、何しても無駄だしな」
「冷めてんねぇ」
そうかぁ?と頬杖をついて窓の外を見る。
次の講義まで時間があったから、食堂で友人の島田とだらだら話していた。
なんで俺が別れたこともう知ってんだよ、とは敢えて聞かなかった。
俺に今朝元カノとなった先輩を紹介したのは島田。
昨日の飲み会に、俺を誘ったのも島田だった。
顔が広い分、いろんな噂話も流れ着いて作るのだろう。
「好きってよく分かんねぇ」
「付き合ってたのに?」
「付き合ってたのに」
好きと言われたら、応えたいと思う。
気持ちをくれた分、返したいと思う。
付き合っている間はちゃんと俺も好きだと思う。
幸せにしたいし、楽しませたいから、デートプランだって色々考える。
浮気は微塵もしようと思わないし、メッセージもマメで、記念日だって忘れない。
それなのに、大抵三ヶ月で振られるのだ。
好きって言ったのはそっちなのに、と、毎回思わずにはいられない。
俺は良い彼氏をできていると思う。
実際その都度、彼女の友達には毎回扱いが理想的だと羨ましがられていたし。
けれど振られて、あっけなく終わる。
終わったら終わったで未練もなくて、だから毎回悩むのだ。
好きって、付き合うって、なんなのだろう、と。
「先輩」
声がして、振り返るとそこにはカモ『られて』いた方の男が立っていて。
「おー」
昨日ぶり、と声をかけて俺の隣の椅子を引いてやる。
「知り合い?」
「昨日の飲み会に来てた。お前カメラ売りつけてくる先輩知ってるか?」
「いや、知らない何それ」
「居たんだよ昨日。自分の更に先輩からの紹介だって言えば、このカメラが半額になるとか言ってた。んでその先輩に昨日カモられかけてたのが、こいつ」
「ちょ……」
なんですかその紹介、って苦笑いで隣で座る男を、俺と島田は揃って見る。
「名前なんだっけ」
「西宮です。西宮 陸(にしみや りく)」
「そっか、俺は内海 千尋(うつみ ちひろ)。よろしくな」
「……はい、よろしくお願いします」
……なんだ?
やたらとテンションが低いから不思議に思う。
昨日は結構話が盛り上がっていた気がする。
気がするというのは、正直あまり覚えていないからだ。
ハイボール一口で普通に酔って、結構フラフラだったから断片的な記憶しかない。
そういや昨日、俺どうやって帰ったんだ?
「俺は島田。ごめんな、カメラ売りつける人が居るとか全然把握してなかった」
「あ、いえいえ……」
「ちゃんと断れた?先輩なら言いにくかったろ」
「は、はい、先輩が……内海先輩が守ってくれたので」
「「はあ?」」
島田と声が被って、俺たちは顔を見合わせる。
島田はきっと俺の行動に驚いた声で、俺は守るって言い方がちょっと語弊があるなと思っての声だった。
「守るって、内海が?」
「はい……!」
「いやいや語弊がある、俺はただ……」
「しかも、嫌なら嫌って言えとアドバイスをくれて……俺、今日、ティッシュ配り断れたんです!」
「おお!」
なに盛り上がってんだよ。
む、としていると、島田が俺の肩を何度も叩いてくるから振り払う。
「内海そういうところあるよな〜!優しいんだよな〜!」
「うるせぇ」
「はい、とても優しいです……!」
「キラキラするな!」
守ったとかじゃない、そんなんじゃなくてただ、俺の中の正しさに反していただけで。
けれど俺の良いところエピソードが島田によって披露されはじめて、居心地の悪さが限界突破したから俺は食堂を出た。
西宮は最初俺を追いかけようとしていたけれど、結局エピソードの誘惑に抗えず、みたいな顔でその場に残っていたから、フン!と荒く息を吐いた。
別にどうだっていい。
追いかけてこねぇのかよなんて、これっぽちも思っちゃいない。