「先輩、俺無水カレーってやつ作ってみたいです!」
「……無水カレー?」
ベッドで横になる西宮の腹を枕にしていたら、突然西宮が上体を起こして言うので、俺は若干転がされながら聞き返す。
「はいっ、具材の水分だけで作るカレーです。お水入れないんです!」
見せられたスマホには、確かに水分が控えめで濃厚そうなカレーの画像が写っている。
急だなと思ったけれど、その魅力的な画像を見て作りたくなる気持ちはよく分かった。
鮮やかで美しく、スパイスの香りすらしそうなその画像は、俺の脳と胃も存分に刺激をしてお腹を空かせてきたから。
「へぇ、じゃあ買い出し行くか」
「はい!先輩大好き!」
「はあ??」
なんだこのハイテンション、と眺めると、西宮は本当に嬉しそうにしているからまあいいかと思う。
けれど俺が出掛ける為に着替え始めると寄ってきた西宮は堂々と俺に触れてくるから、どっちかにしろ!と叱った。
それから、『どちらか』は失言だったなと思う。
選ばせたが最後、西宮は俺を選ぶに決まっていた。
なんか。
「新婚みたいですね」
「……」
俺の脳内を先読みしたかのようなタイミングで、俺が思っていたことと同じことを言うから、少し気まずい。
そんな俺の反応を見てまた笑顔を深めた西宮は、カートを押す俺の手に手の平を重ねてくるから心臓が跳ねた。
「こら」
「大丈夫、他にお客さんいませんよ」
「っ」
だから、俺は、お前の声に弱いんだって。
囁くように耳元で言われた声に身を縮めていると、重ねられた手が強く握られるから息が乱れる。
「やめ、ろ」
「……先輩可愛い」
「っ!」
「いだい!」
斜め上から俺を覗き込んで、欲を滲ませた笑顔を見せていた西宮に頭突きをかます。
外で、尚且つ最寄りのスーパーでイチャついてるところなんて見られたらもうここに来られないじゃないか。
おでこを押さえている西宮をじとっと見ると、まだ『いいじゃないですか!』みたいな顔をしているから言う。
「お前の玉ねぎだけ生にするぞ」
「ええ!一緒に煮込んでください!……でもトッピングとして生もありかも……」
「っち」
「舌打ちしました!?」
どこまでもポジティブな奴め。
そういうところも好きなのだから、恋って怖いよな、と思ったりした。
「先輩……うっ、うう……」
「はいはい涙拭くぞ」
「ついでにキスもしてくださいいい」
「するかばか!包丁置け!」
「ううう」
今日は俺が作るので先輩は応援しててください!と、買い出しから帰って早々調理に取り掛かった西宮は、早速玉ねぎでぼろぼろに泣いており、俺は執刀医の汗を拭く助手同然に西宮の涙を拭う係となって大忙しだった。
「ちょっと休んどけ、後やるから」
「うううう」
西宮がここまで玉ねぎに弱いと思わなかった。
なんか涙が出にくいコツとかあったよな、と思いながら、受け取った包丁で片っ端から野菜を切り刻んでいく。
今後も料理をしたがるなら、一気にみじん切りができる料理アイテムでも買うかと考えていたら、手を洗った西宮が腰に巻き付いてくるから息を吐いた。
「また涙出るぞ」
「大丈夫です、先輩で拭きます」
「はああ?」
「ふふっ」
俺の肩に顎を乗せた西宮は、ご機嫌で俺の手元を覗き込んでいる。
俺がやります!と息巻いてた割に、見守り側も楽しそうにしているから、本当一緒に居て飽きないなと思う。
いつも料理は二人で協力スタイルだったから、こうして時には応援する側が居るのもいいのかもしれない、と思った。
「やっぱ却下だな」
「へ?」
包丁の出番が終わると早々に服の裾から腹を撫でてくる西宮に、俺は考えを改めて、その手の甲を摘んだ。
「いだあ!」
「西宮〜」
「はああい」
映画を観ながらカレーを煮込んで、そろそろか、と鍋を覗けばかなり良い具合で。
西宮を呼ぶと素直に来るから、本当に犬みたいだと思う。
そんな西宮は西宮で、映画を観ながら飲み食いしていたお菓子やらを片付けてくれていた。
こういう分担も、なんか良いな、と心がむずむずする。
「味見て」
「あーん」
「……お前が言うのか」
俺からスプーンで掬ったカレーを一口受け取った西宮は、途端に目を輝かせるから直ぐに出来具合が分かる。
「んんん!」
「美味い?」
「っはい!」
「じゃあ食うか」
「んんんん!」
「はいはい」
一口食べた余韻でじたばたしている西宮を笑いながら、それでもテキパキとご飯を盛ってくれた皿に俺がカレーを掛けると、西宮は宝物を運ぶみたいにしてリビングへと行き、それから戻ってこなくなった。
「おおおおい」
「はい!」
なんとなく、青色の皿が俺の皿で、黄色の皿が西宮の皿で。
一緒に過ごす夜が増えるほどに決まったその色分けは、今俺の手元に残っているのが西宮分の皿だと示していた。
ちょっと多めにカレーを盛っていると、カメラを抱えて戻ってきた西宮と目が合う。
「えへ、カメラ取りに行ってました」
「マメだな」
「全部大切な思い出だから、撮っておきたくて」
「……そうか」
過去を振り返って、大切だったと思い出すんじゃなく、今の全てが大切だと言い切る西宮を眩しく思う。
カレーの皿を差し出すと、一枚撮られてから回収されていくところは抜かりないなと呆れて笑うけれど。
「先輩早くー!」
「はいはい」
西宮は一口味見をしたことで食欲に火が着いたのか、リビングから俺を急かしてくる。
俺は返事をしながら、らっきょうと福神漬けを取り皿に盛ると、呼ばれた通り西宮の隣に座った。
「「いただきます」」
そうして、ほぼ一日を掛けて作ったカレーはこれまで食べたどのカレーよりも美味しくて。
そりゃあ急かす訳だと納得する。
「うんまいな」
「うんまいです!」
二人分にしてはかなりの量を作ったはずが、その日のうちに全部平らげた俺たちは、明日もまた別のレシピの無水カレーを作る程には美味しい仕上がりとハマり具合だった。
きっとこれ以降も作り続けるだろうと思った俺は、西宮がぼろぼろ泣きながら甘えてくる姿と、楽しそうに野菜を一瞬でみじん切りにする姿を天秤に掛けて、後者を取り、みじん切りアイテムを注文した。
俺はやっぱり、西宮に笑っていてほしいと思う。
玉ねぎ相手だろうと西宮を泣かせるのは許し難い。
西宮の泣きながら甘える姿は正直、とても可愛かったけれど。
それはそれ、これはこれである。
「……無水カレー?」
ベッドで横になる西宮の腹を枕にしていたら、突然西宮が上体を起こして言うので、俺は若干転がされながら聞き返す。
「はいっ、具材の水分だけで作るカレーです。お水入れないんです!」
見せられたスマホには、確かに水分が控えめで濃厚そうなカレーの画像が写っている。
急だなと思ったけれど、その魅力的な画像を見て作りたくなる気持ちはよく分かった。
鮮やかで美しく、スパイスの香りすらしそうなその画像は、俺の脳と胃も存分に刺激をしてお腹を空かせてきたから。
「へぇ、じゃあ買い出し行くか」
「はい!先輩大好き!」
「はあ??」
なんだこのハイテンション、と眺めると、西宮は本当に嬉しそうにしているからまあいいかと思う。
けれど俺が出掛ける為に着替え始めると寄ってきた西宮は堂々と俺に触れてくるから、どっちかにしろ!と叱った。
それから、『どちらか』は失言だったなと思う。
選ばせたが最後、西宮は俺を選ぶに決まっていた。
なんか。
「新婚みたいですね」
「……」
俺の脳内を先読みしたかのようなタイミングで、俺が思っていたことと同じことを言うから、少し気まずい。
そんな俺の反応を見てまた笑顔を深めた西宮は、カートを押す俺の手に手の平を重ねてくるから心臓が跳ねた。
「こら」
「大丈夫、他にお客さんいませんよ」
「っ」
だから、俺は、お前の声に弱いんだって。
囁くように耳元で言われた声に身を縮めていると、重ねられた手が強く握られるから息が乱れる。
「やめ、ろ」
「……先輩可愛い」
「っ!」
「いだい!」
斜め上から俺を覗き込んで、欲を滲ませた笑顔を見せていた西宮に頭突きをかます。
外で、尚且つ最寄りのスーパーでイチャついてるところなんて見られたらもうここに来られないじゃないか。
おでこを押さえている西宮をじとっと見ると、まだ『いいじゃないですか!』みたいな顔をしているから言う。
「お前の玉ねぎだけ生にするぞ」
「ええ!一緒に煮込んでください!……でもトッピングとして生もありかも……」
「っち」
「舌打ちしました!?」
どこまでもポジティブな奴め。
そういうところも好きなのだから、恋って怖いよな、と思ったりした。
「先輩……うっ、うう……」
「はいはい涙拭くぞ」
「ついでにキスもしてくださいいい」
「するかばか!包丁置け!」
「ううう」
今日は俺が作るので先輩は応援しててください!と、買い出しから帰って早々調理に取り掛かった西宮は、早速玉ねぎでぼろぼろに泣いており、俺は執刀医の汗を拭く助手同然に西宮の涙を拭う係となって大忙しだった。
「ちょっと休んどけ、後やるから」
「うううう」
西宮がここまで玉ねぎに弱いと思わなかった。
なんか涙が出にくいコツとかあったよな、と思いながら、受け取った包丁で片っ端から野菜を切り刻んでいく。
今後も料理をしたがるなら、一気にみじん切りができる料理アイテムでも買うかと考えていたら、手を洗った西宮が腰に巻き付いてくるから息を吐いた。
「また涙出るぞ」
「大丈夫です、先輩で拭きます」
「はああ?」
「ふふっ」
俺の肩に顎を乗せた西宮は、ご機嫌で俺の手元を覗き込んでいる。
俺がやります!と息巻いてた割に、見守り側も楽しそうにしているから、本当一緒に居て飽きないなと思う。
いつも料理は二人で協力スタイルだったから、こうして時には応援する側が居るのもいいのかもしれない、と思った。
「やっぱ却下だな」
「へ?」
包丁の出番が終わると早々に服の裾から腹を撫でてくる西宮に、俺は考えを改めて、その手の甲を摘んだ。
「いだあ!」
「西宮〜」
「はああい」
映画を観ながらカレーを煮込んで、そろそろか、と鍋を覗けばかなり良い具合で。
西宮を呼ぶと素直に来るから、本当に犬みたいだと思う。
そんな西宮は西宮で、映画を観ながら飲み食いしていたお菓子やらを片付けてくれていた。
こういう分担も、なんか良いな、と心がむずむずする。
「味見て」
「あーん」
「……お前が言うのか」
俺からスプーンで掬ったカレーを一口受け取った西宮は、途端に目を輝かせるから直ぐに出来具合が分かる。
「んんん!」
「美味い?」
「っはい!」
「じゃあ食うか」
「んんんん!」
「はいはい」
一口食べた余韻でじたばたしている西宮を笑いながら、それでもテキパキとご飯を盛ってくれた皿に俺がカレーを掛けると、西宮は宝物を運ぶみたいにしてリビングへと行き、それから戻ってこなくなった。
「おおおおい」
「はい!」
なんとなく、青色の皿が俺の皿で、黄色の皿が西宮の皿で。
一緒に過ごす夜が増えるほどに決まったその色分けは、今俺の手元に残っているのが西宮分の皿だと示していた。
ちょっと多めにカレーを盛っていると、カメラを抱えて戻ってきた西宮と目が合う。
「えへ、カメラ取りに行ってました」
「マメだな」
「全部大切な思い出だから、撮っておきたくて」
「……そうか」
過去を振り返って、大切だったと思い出すんじゃなく、今の全てが大切だと言い切る西宮を眩しく思う。
カレーの皿を差し出すと、一枚撮られてから回収されていくところは抜かりないなと呆れて笑うけれど。
「先輩早くー!」
「はいはい」
西宮は一口味見をしたことで食欲に火が着いたのか、リビングから俺を急かしてくる。
俺は返事をしながら、らっきょうと福神漬けを取り皿に盛ると、呼ばれた通り西宮の隣に座った。
「「いただきます」」
そうして、ほぼ一日を掛けて作ったカレーはこれまで食べたどのカレーよりも美味しくて。
そりゃあ急かす訳だと納得する。
「うんまいな」
「うんまいです!」
二人分にしてはかなりの量を作ったはずが、その日のうちに全部平らげた俺たちは、明日もまた別のレシピの無水カレーを作る程には美味しい仕上がりとハマり具合だった。
きっとこれ以降も作り続けるだろうと思った俺は、西宮がぼろぼろ泣きながら甘えてくる姿と、楽しそうに野菜を一瞬でみじん切りにする姿を天秤に掛けて、後者を取り、みじん切りアイテムを注文した。
俺はやっぱり、西宮に笑っていてほしいと思う。
玉ねぎ相手だろうと西宮を泣かせるのは許し難い。
西宮の泣きながら甘える姿は正直、とても可愛かったけれど。
それはそれ、これはこれである。



