「じゃあ……元気でな、内海」
「夏休み入るだけだろ」
「おい情緒!」
突然始まった島田のおふざけを呆れて流すと、西宮は楽しそうに笑っているからまあいいかと思う。
今日で俺たちは夏休みに入る。
大学の夏休みは長いぞ、と島田が西宮を脅しているから引っぱたいて、帰るぞ、と先に行く。
「なんかあったら連絡しろよ〜!暇でも連絡しろよ〜!」
「はいはい、彼女と仲良くなー」
「それはもちろーーん!」
「けっ」
相変わらず彼女とちゃんと仲良くやっているらしい島田と別れて、俺と西宮は同じ電車に乗る。
今日から早速西宮は泊まりに来るらしい。
実家に帰ったりしないのかと聞いたけれど、暑いからいいとのことだった。
うちもそんな感じだしな、と笑えば、その分先輩と一緒に居たいです!とか可愛いことを言うので頷いていた。
『先輩、どの花火行きますか』
電車の中だからか、スマホのメモに打ち込んで見せてくる西宮に、俺は手を伸ばしてその下に文字を打ち込んでいく。
『きょうはなそ』
「ふふっ」
変換も何もない文字だからか、西宮が吐息を漏らして笑う。
だからじろりと睨めば、嬉しそうな顔をしている西宮がそのメモをお気に入りに登録しているのが見えて、牙を収めた。
誰よりも可愛いくせに、俺を可愛いと言うのだから変な奴だなと思う。
そんな奴を好きな俺も、変な奴なのかもしれない。
変な奴同士、幸せならそれで十分だとも思う。
「ここは来週ですね」
「へぇ、早いな」
「でも駅から少し歩きますね」
「あ〜」
きょうはなそ、の宣言通り、俺と西宮は並んで座って、スマホで花火の情報を調べていて。
選べるほどに開催があるのは凄いなと思う。
それから隣の県まで調べている西宮を引っぱたく。
「旅行する気か」
「それもいいですね!?」
「ばか、範囲を広げるな!」
旅行の一言を聞いた西宮が検索範囲を日本全体に拡大するから直ぐさま俺が縮小する。
旅行でもいいが、なんとなく花火と旅行は分けたかった。
それにお互い車の免許を持っていないし、旅となると大変だろと言えば、じゃあ先に免許を取りに行きますか!とキラキラし始めるから崩れる。
「テンション上がり過ぎだ、落ち着け」
「う、すみません」
素直に認めた西宮の頭を撫でてやると、大人しくなるから可愛い。
「まあ大学に入って初めての夏休みだもんな」
「……それもありますけど、その、初めての恋人が居る夏休み、なので……」
「えっ」
初めて!?と驚くと、西宮はきょとんとしているので余計に驚く。
てっきりこれまでもお付き合いがあって、だから西宮は自分が好きになる範囲を理解しているのだと思っていた。
それが初めて……初めて……!?
「おま、初めてであの攻……て、てくにっく……なのかよ……!?」
「へ?」
とんだ天才も居たもんだなと思う。
散々鳴かされている俺としては悔しいことこの上ないが、初めてならもっと、これまで以上に全てを大事にしてやらなくてはと思う。
記念日とか、イベントとか、そういう大きなものだけでなく、お揃いとか、お出掛けとか、そういう些細なことも、全部。
だって俺はもうこちらから西宮を離す気は無いし、西宮もそうなのだとしたら、お互いが最初で最後の男になる訳なのだから。
「大事にするからな」
「……え、あ、えへへ」
俺の真剣な声に、照れて嬉しそうに笑う西宮。
可愛い、好きだぞ、とキスすれば西宮はもっと照れるのに、結局夢中になった西宮に俺がヘトヘトにされるのだからやっぱり少し悔しかった。
「じゃあ夏祭りが来週、花火は再来週だな」
「はい!」
「旅行は冬かな。冬ならかまくらに入ってみたいんだよな俺」
「……先輩可愛い……ふふっ」
「はあ?」
誰でもあるだろそういう憧れ、と西宮の頬を抓ると、西宮はそのままの状態でニコニコしている。
俺が本気で攻撃はしないと分かっていて、安心して心を開ききっているその姿に、妙な胸騒ぎを覚えるのは何故なのか。
噛み付いて、押し倒して、押さえつけて、押しつけたくなるような、よく分からない衝動。
「ほら、寝るぞ」
「はい!でもその前に、もう一回……」
「しない!」
「ええっ!」
さっき散々しただろうが、とは流石に恥ずかしくて言えず、けれどおやつがソファの下に潜り込んでしまった犬みたいな寂しげな顔を見せられると、弱くて。
「……一回、だけだぞ」
「はいっ!!」
「うるせぇ」
一回は一回でも、やたら長い一回で愛されて、詐欺だ!と叫ぶ声は、西宮のキスで飲み込まれた。
「めちゃくちゃにしたくなる時がある」
「惚気か警察か怪しいとこだな」
「どっちでもねぇよ」
西宮は一度、洗濯諸々してきます!と言って家へと帰っていった。
だから一人で、最近西宮に対して抱く、よく分からない衝動、について考えていて。
欲といえば欲なのかもしれないけれど、キスしたい、みたいな欲よりもっと、激しい感じがしていて、答えは見つからないままで。
ふと、夏休みに入る前、何かあったら連絡しろよと言ってくれた島田のことを思い出して、電話して相談してみたら、危うく警察案件にされるところだった。
「めちゃくちゃに、なぁ。殴りたいとかじゃないよな?」
「それはもちろん。どちらかというと齧り付きたい」
「……やっぱ惚気か警察か見極めがムズいな」
「だからちげぇって」
ちげぇ、はずである。
実際、思うだけで行動には移していないし。
けれど島田が分からないということは、島田が島田の彼女に抱いたことのない感情ということか、と思う。
ちゃんと恋をして、ちゃんと人を好きになって付き合う『お付き合い』が、今回初めての俺は長くお付き合いを続けられている島田が師匠みたいなもので。
だから何か答えが分かるかと思ったけれど、今回は分からないままで、より一層モヤモヤとする。
「なぁ、キュートアグレッション、じゃないか?ネットで調べたら出てきたけど」
「きゅーと……なんて?」
「キュートアグレッション」
「なんだそれ」
暫くお互い黙っていたと思えば、島田がパソコンのキーボードを叩くような音がして、出てきた言葉は初めて聞くもので。
きゅーと?
そりゃあ西宮は、キュートではあるが。
アグレッションはちょっと暴力的な感じがしないか?
やっぱ俺、おかしいのか。
島田が言うように、警察案件……なのか?
「赤ちゃんとか動物とか、可愛過ぎるものを目の前にして、脳がキャパオーバーになってる感じ、らしい。ざっくり俺が読んだまとめだけど」
「なっ」
「おーまえ、やっぱ惚気じゃねぇか。西宮君が可愛くてたまんないんだ?」
「は……はぁ!?ばーーーーか!!」
「あ!?こらガキ!ありがっ」
何か喚いていたが、通話を切ってやった。
てか、西宮が可愛過ぎてキャパオーバーって。
心当たりしかなさすぎるな、と思って、メッセージアプリを開く。
『ありがと』
『いいよん、幸せそうで何よりだよ』
島田にちゃんとお礼を言うと、俺の幸せを喜んでくれる割に、大笑いしているウザキャラの煽りスタンプも一緒に送られてくるから笑う。
なんだかんだと面倒見がよくて、二年になっても、俺が男と付き合っても、変わらず友達で居てくれる優しい奴。
次島田が惚気けてきても、ちゃんと一回は聞いてやろうと思った。
一回だけな。
「お前、可愛過ぎるらしいぞ」
「へ……えっ!?」
洗濯諸々に帰っていた西宮は、これまた大きな荷物を抱えて俺の部屋に来た。
全て、俺の部屋でお泊まりする為の道具らしい。
基本は着替えだと言っていたけれど、住み着きかねないなと思うほどの量で、尚且つそんなでっかいカバンどこで買えるんだよと思うほどに大きいカバンから、スイカ丸々一つ出てきた時はキュートアグレッション関係なく引っぱたいてやろうかと思った。
大荷物過ぎるだろ。
重かっただろ。
何か買いに行くなら一緒に行ったのに。
それから。
スイカが割れてたらお前……服全部お釈迦だったぞ。
「俺最近、西宮をめちゃくちゃにしたくなる時があって」
「えっ!!」
「嬉しそうにするな!」
「うっ」
突然のスイカに俺の冷蔵庫は悲鳴を上げていて、とりあえず冷やしていた水を最低限だけ残して、スイカ用のスペースを確保して。
そうやって追い出された水で西宮の両頬を挟むと、冷たそうに、でも気持ちよさそうにするから笑う。
「それ、キュートアグレッションっていうらしい。可愛過ぎるものを見て、脳がキャパオーバーになって起きる衝動だって」
「へえええ」
「確かにお前のこと押さえつけて、噛み付いて、ってしたくなってたんだよな」
「へえ……」
言いながら、大荷物で外を歩いてきた西宮を俺は冷やすのに必死で気付いていなかった。
西宮がその目にまた、深い欲を携えたことに。
「は!?うわっ、なに!」
「とりあえずしましょう、先輩」
「はあ!?」
突然抱き上げられたかと思えば、そのまま寝室へ連れて行かれるから暴れて抵抗する。
それなのに全然怯まない西宮は、易々と俺をベッドへ下ろして、のしかかってくるから慌てた。
「ちょ、こら!」
「俺もです、先輩」
「は?」
「俺も先輩のこと、可愛過ぎてめちゃくちゃにしたいってずっと思ってました」
「は……?」
島田には理解されなかった感情を、西宮は簡単に理解して、俺と同じかそれ以上の重さを向けてくるから戸惑う。
それから、今まで以上に欲情した顔を見せた西宮が大きく大きく口を開けて噛み付いてくるのが見えて、俺は、本気で食われると思った。
「っく」
俺の肩に噛み付いてきた西宮の、後頭部を支えて噛まれた衝撃になんとか耐える。
押さえつけて、噛み付いて、めちゃくちゃにしたい。
そんな衝動を西宮も抱えていたのかと思うと、正直嬉しかった。
俺だけじゃなかった、とそう思えたから。
それから、向ける先がお互い互いで、良かった。
「俺も噛みてぇ、っつの」
「わっ!」
俺の肩に付いた噛み跡を、尚も食んで舐めていた西宮の肩に、俺も齧り付く。
鎖骨を噛んだ時よりも引っ掛かりがなくて、噛みやすくていいなと思っていたら、仕返しとばかりに肩を吸われて、驚いて。
「先輩も、跡付けてください」
少し離れた西宮が、俺に効くその声で要求するから、お望み通り、目の前の肩をキツく吸い上げた。
「や〜〜いいですね〜〜」
「良くねぇよ」
衝動に任せてお互い散々噛み付いて吸い付いた結果、お風呂でギョッとするくらいの量が赤く色付いていて、笑えない。
「俺は嬉しいです。前に先輩が付けてくれた跡、毎日眺めて愛でてましたから」
「はああ??」
愛でるってなんだよ。
そう思うのに、本当に嬉しそうに笑うその顔を見たら、何も言えなくなるのだから恋とは難儀である。
「……スイカ、食うか」
「はいっ!」
西宮が買ってきてくれたスイカは、俺たちに増えた赤い跡よりもずっと濃く鮮やかで、瑞々しくて甘くて。
二人で過ごす楽しい夏の始まりを、盛大に予感させた。
「夏休み入るだけだろ」
「おい情緒!」
突然始まった島田のおふざけを呆れて流すと、西宮は楽しそうに笑っているからまあいいかと思う。
今日で俺たちは夏休みに入る。
大学の夏休みは長いぞ、と島田が西宮を脅しているから引っぱたいて、帰るぞ、と先に行く。
「なんかあったら連絡しろよ〜!暇でも連絡しろよ〜!」
「はいはい、彼女と仲良くなー」
「それはもちろーーん!」
「けっ」
相変わらず彼女とちゃんと仲良くやっているらしい島田と別れて、俺と西宮は同じ電車に乗る。
今日から早速西宮は泊まりに来るらしい。
実家に帰ったりしないのかと聞いたけれど、暑いからいいとのことだった。
うちもそんな感じだしな、と笑えば、その分先輩と一緒に居たいです!とか可愛いことを言うので頷いていた。
『先輩、どの花火行きますか』
電車の中だからか、スマホのメモに打ち込んで見せてくる西宮に、俺は手を伸ばしてその下に文字を打ち込んでいく。
『きょうはなそ』
「ふふっ」
変換も何もない文字だからか、西宮が吐息を漏らして笑う。
だからじろりと睨めば、嬉しそうな顔をしている西宮がそのメモをお気に入りに登録しているのが見えて、牙を収めた。
誰よりも可愛いくせに、俺を可愛いと言うのだから変な奴だなと思う。
そんな奴を好きな俺も、変な奴なのかもしれない。
変な奴同士、幸せならそれで十分だとも思う。
「ここは来週ですね」
「へぇ、早いな」
「でも駅から少し歩きますね」
「あ〜」
きょうはなそ、の宣言通り、俺と西宮は並んで座って、スマホで花火の情報を調べていて。
選べるほどに開催があるのは凄いなと思う。
それから隣の県まで調べている西宮を引っぱたく。
「旅行する気か」
「それもいいですね!?」
「ばか、範囲を広げるな!」
旅行の一言を聞いた西宮が検索範囲を日本全体に拡大するから直ぐさま俺が縮小する。
旅行でもいいが、なんとなく花火と旅行は分けたかった。
それにお互い車の免許を持っていないし、旅となると大変だろと言えば、じゃあ先に免許を取りに行きますか!とキラキラし始めるから崩れる。
「テンション上がり過ぎだ、落ち着け」
「う、すみません」
素直に認めた西宮の頭を撫でてやると、大人しくなるから可愛い。
「まあ大学に入って初めての夏休みだもんな」
「……それもありますけど、その、初めての恋人が居る夏休み、なので……」
「えっ」
初めて!?と驚くと、西宮はきょとんとしているので余計に驚く。
てっきりこれまでもお付き合いがあって、だから西宮は自分が好きになる範囲を理解しているのだと思っていた。
それが初めて……初めて……!?
「おま、初めてであの攻……て、てくにっく……なのかよ……!?」
「へ?」
とんだ天才も居たもんだなと思う。
散々鳴かされている俺としては悔しいことこの上ないが、初めてならもっと、これまで以上に全てを大事にしてやらなくてはと思う。
記念日とか、イベントとか、そういう大きなものだけでなく、お揃いとか、お出掛けとか、そういう些細なことも、全部。
だって俺はもうこちらから西宮を離す気は無いし、西宮もそうなのだとしたら、お互いが最初で最後の男になる訳なのだから。
「大事にするからな」
「……え、あ、えへへ」
俺の真剣な声に、照れて嬉しそうに笑う西宮。
可愛い、好きだぞ、とキスすれば西宮はもっと照れるのに、結局夢中になった西宮に俺がヘトヘトにされるのだからやっぱり少し悔しかった。
「じゃあ夏祭りが来週、花火は再来週だな」
「はい!」
「旅行は冬かな。冬ならかまくらに入ってみたいんだよな俺」
「……先輩可愛い……ふふっ」
「はあ?」
誰でもあるだろそういう憧れ、と西宮の頬を抓ると、西宮はそのままの状態でニコニコしている。
俺が本気で攻撃はしないと分かっていて、安心して心を開ききっているその姿に、妙な胸騒ぎを覚えるのは何故なのか。
噛み付いて、押し倒して、押さえつけて、押しつけたくなるような、よく分からない衝動。
「ほら、寝るぞ」
「はい!でもその前に、もう一回……」
「しない!」
「ええっ!」
さっき散々しただろうが、とは流石に恥ずかしくて言えず、けれどおやつがソファの下に潜り込んでしまった犬みたいな寂しげな顔を見せられると、弱くて。
「……一回、だけだぞ」
「はいっ!!」
「うるせぇ」
一回は一回でも、やたら長い一回で愛されて、詐欺だ!と叫ぶ声は、西宮のキスで飲み込まれた。
「めちゃくちゃにしたくなる時がある」
「惚気か警察か怪しいとこだな」
「どっちでもねぇよ」
西宮は一度、洗濯諸々してきます!と言って家へと帰っていった。
だから一人で、最近西宮に対して抱く、よく分からない衝動、について考えていて。
欲といえば欲なのかもしれないけれど、キスしたい、みたいな欲よりもっと、激しい感じがしていて、答えは見つからないままで。
ふと、夏休みに入る前、何かあったら連絡しろよと言ってくれた島田のことを思い出して、電話して相談してみたら、危うく警察案件にされるところだった。
「めちゃくちゃに、なぁ。殴りたいとかじゃないよな?」
「それはもちろん。どちらかというと齧り付きたい」
「……やっぱ惚気か警察か見極めがムズいな」
「だからちげぇって」
ちげぇ、はずである。
実際、思うだけで行動には移していないし。
けれど島田が分からないということは、島田が島田の彼女に抱いたことのない感情ということか、と思う。
ちゃんと恋をして、ちゃんと人を好きになって付き合う『お付き合い』が、今回初めての俺は長くお付き合いを続けられている島田が師匠みたいなもので。
だから何か答えが分かるかと思ったけれど、今回は分からないままで、より一層モヤモヤとする。
「なぁ、キュートアグレッション、じゃないか?ネットで調べたら出てきたけど」
「きゅーと……なんて?」
「キュートアグレッション」
「なんだそれ」
暫くお互い黙っていたと思えば、島田がパソコンのキーボードを叩くような音がして、出てきた言葉は初めて聞くもので。
きゅーと?
そりゃあ西宮は、キュートではあるが。
アグレッションはちょっと暴力的な感じがしないか?
やっぱ俺、おかしいのか。
島田が言うように、警察案件……なのか?
「赤ちゃんとか動物とか、可愛過ぎるものを目の前にして、脳がキャパオーバーになってる感じ、らしい。ざっくり俺が読んだまとめだけど」
「なっ」
「おーまえ、やっぱ惚気じゃねぇか。西宮君が可愛くてたまんないんだ?」
「は……はぁ!?ばーーーーか!!」
「あ!?こらガキ!ありがっ」
何か喚いていたが、通話を切ってやった。
てか、西宮が可愛過ぎてキャパオーバーって。
心当たりしかなさすぎるな、と思って、メッセージアプリを開く。
『ありがと』
『いいよん、幸せそうで何よりだよ』
島田にちゃんとお礼を言うと、俺の幸せを喜んでくれる割に、大笑いしているウザキャラの煽りスタンプも一緒に送られてくるから笑う。
なんだかんだと面倒見がよくて、二年になっても、俺が男と付き合っても、変わらず友達で居てくれる優しい奴。
次島田が惚気けてきても、ちゃんと一回は聞いてやろうと思った。
一回だけな。
「お前、可愛過ぎるらしいぞ」
「へ……えっ!?」
洗濯諸々に帰っていた西宮は、これまた大きな荷物を抱えて俺の部屋に来た。
全て、俺の部屋でお泊まりする為の道具らしい。
基本は着替えだと言っていたけれど、住み着きかねないなと思うほどの量で、尚且つそんなでっかいカバンどこで買えるんだよと思うほどに大きいカバンから、スイカ丸々一つ出てきた時はキュートアグレッション関係なく引っぱたいてやろうかと思った。
大荷物過ぎるだろ。
重かっただろ。
何か買いに行くなら一緒に行ったのに。
それから。
スイカが割れてたらお前……服全部お釈迦だったぞ。
「俺最近、西宮をめちゃくちゃにしたくなる時があって」
「えっ!!」
「嬉しそうにするな!」
「うっ」
突然のスイカに俺の冷蔵庫は悲鳴を上げていて、とりあえず冷やしていた水を最低限だけ残して、スイカ用のスペースを確保して。
そうやって追い出された水で西宮の両頬を挟むと、冷たそうに、でも気持ちよさそうにするから笑う。
「それ、キュートアグレッションっていうらしい。可愛過ぎるものを見て、脳がキャパオーバーになって起きる衝動だって」
「へえええ」
「確かにお前のこと押さえつけて、噛み付いて、ってしたくなってたんだよな」
「へえ……」
言いながら、大荷物で外を歩いてきた西宮を俺は冷やすのに必死で気付いていなかった。
西宮がその目にまた、深い欲を携えたことに。
「は!?うわっ、なに!」
「とりあえずしましょう、先輩」
「はあ!?」
突然抱き上げられたかと思えば、そのまま寝室へ連れて行かれるから暴れて抵抗する。
それなのに全然怯まない西宮は、易々と俺をベッドへ下ろして、のしかかってくるから慌てた。
「ちょ、こら!」
「俺もです、先輩」
「は?」
「俺も先輩のこと、可愛過ぎてめちゃくちゃにしたいってずっと思ってました」
「は……?」
島田には理解されなかった感情を、西宮は簡単に理解して、俺と同じかそれ以上の重さを向けてくるから戸惑う。
それから、今まで以上に欲情した顔を見せた西宮が大きく大きく口を開けて噛み付いてくるのが見えて、俺は、本気で食われると思った。
「っく」
俺の肩に噛み付いてきた西宮の、後頭部を支えて噛まれた衝撃になんとか耐える。
押さえつけて、噛み付いて、めちゃくちゃにしたい。
そんな衝動を西宮も抱えていたのかと思うと、正直嬉しかった。
俺だけじゃなかった、とそう思えたから。
それから、向ける先がお互い互いで、良かった。
「俺も噛みてぇ、っつの」
「わっ!」
俺の肩に付いた噛み跡を、尚も食んで舐めていた西宮の肩に、俺も齧り付く。
鎖骨を噛んだ時よりも引っ掛かりがなくて、噛みやすくていいなと思っていたら、仕返しとばかりに肩を吸われて、驚いて。
「先輩も、跡付けてください」
少し離れた西宮が、俺に効くその声で要求するから、お望み通り、目の前の肩をキツく吸い上げた。
「や〜〜いいですね〜〜」
「良くねぇよ」
衝動に任せてお互い散々噛み付いて吸い付いた結果、お風呂でギョッとするくらいの量が赤く色付いていて、笑えない。
「俺は嬉しいです。前に先輩が付けてくれた跡、毎日眺めて愛でてましたから」
「はああ??」
愛でるってなんだよ。
そう思うのに、本当に嬉しそうに笑うその顔を見たら、何も言えなくなるのだから恋とは難儀である。
「……スイカ、食うか」
「はいっ!」
西宮が買ってきてくれたスイカは、俺たちに増えた赤い跡よりもずっと濃く鮮やかで、瑞々しくて甘くて。
二人で過ごす楽しい夏の始まりを、盛大に予感させた。



