これからの色

気がつくと、自分から早紀に声をかけづらくなっていた。
心の中に小川のようなものができていた。
ひょいと勢いよく飛ばないといけないような、そんな感じ。
それ以外はいつもどおり。
授業を受けて、放課後図書室に残って、閉館時間になったら校舎を出る。
そして、いっしょに帰れそうな時は、早紀と帰る。
変わったのは、俺の心の中だけ。

「テスト、どうだった?」
早紀がいつものように隣で俺を見上げる。
「まあまあだった」
「私もまあまあ」
「そっか」
「テストばっかで嫌になっちゃう。この土日、また模試だし。まあ、仕方ないんだけど」
「うん」
「かと言って、なかなかお出かけもできないよね。なんか勉強しなきゃいけないのに、っていう後ろめたさがあって」
「そうだね」
「受験終わったら、お出かけしようね」
その言葉に一瞬戸惑った。
いつもだったら、嬉しいのに。
「……うん」
俺、即答できてないじゃん。

いっしょに各駅停車の電車に乗る。
俺は次の駅で乗り換え。
「また明日」
「うん」
電車を降りて振り返る。
扉越しに早紀が笑顔で手を振っている。
つられるように手を振った。
どうしてだろう。
早紀がいつもより遠く感じた。

ベッドに寝転がる。
腕を目頭に当てた。
俺、どうした?
なんだろう、この気持ち。
早紀と話すの、今までもっと楽しかったのに。
チロがベッドに上がってきた。
頭を撫でる。
「困ったな」
チロは俺の顔を舐めた。
「優しいな、チロは」
チロを抱きしめた。

数日、心の中に溜まったたくさんの小石を抱えて過ごしていたけど、いよいよ抱えきれなくなった。
『明日、ちょっと話せる?』
早紀にメッセージを送った。
『うん。どうしたの?』
どう返そう。
しばらく考えて、
『直接話したい』
とだけ返した。