これからの色

早紀と出会ったのは、図書室だった。
早紀は図書委員だったから、よくカウンターの中にいた。
何度かカウンターで顔を合わすうちに、話すようになった。
「この本、おもしろかった?」
と声をかけられたのが最初だった。
「まあまあかな」
「えー借りようと思ったのに」
「じゃあ、違うのにした方がいいかも」
「おすすめある?」
「あるけど、暗い話だよ」
「暗いのは嫌だなぁ」
なんてことを話した。
それから、早紀とは本の話のほかにもいろんな話をするようになった。

俺は、嬉しかったんだ。
見た目じゃなくて、『俺』に話しかけてもらえた気がしたから。

それから、しばらくして。
「私、大木くんのことが好きなんだ」
と告白された。
放課後の図書室だった。
驚いた。
「俺でいいの?」
「大木くんがいいの」
そう言って早紀は、不安そうに俺を見上げた。
なんとなく、早紀となら大丈夫な気がした。
「よろしく」
少し照れくさかった。

その日、初めていっしょに帰った。
もう辺りは暗くて、街灯がついていた。
一番星が明るかった。
「あのね」
「ん?」
「大木くんのこと、名前で呼んでもいい?」
上目遣いで俺を見る。
「うん。なんでもいいよ。俺はなんて呼べばいい?」
「……呼び捨てがいい」
「早紀」
「うん」
早紀は恥ずかしそうにうつむいた。
「じゃ、俺のことは歩で」
「うん」
早紀の声が少し弾んでいた。
「歩……なんか、照れるね、呼び捨て」
「そのうち慣れるよ」
「うん」
早紀は少し笑ってから、俺を見上げた。
「なに?」
「歩ってさ、かっこいいよね」
「そうかな」
思わず笑うと、
「うん、かっこいいよ」
と早紀も笑った。


ベッドにもたれて、思い出していた。
愛犬のチロが、俺の膝に顔を乗せている。
「よしよし」
チロの背中を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じた。

あの頃は。
かっこいいという言葉を、素直に受け取れていたのに。
どうして、いちいち引っかかるんだろう。
どうして、胸の奥が少し寂しくなるんだろう。
「俺、おかしいのかな」
チロに尋ねてみる。
チロは嬉しそうにしっぽを振った。