これからの色

梅雨が明け、じりじりと暑い日が続いていた。
日を浴びる真緑の葉が眩しい。
外の景色や気温は変わっても、毎日教室と図書室にいた俺にとっては、季節が変わったというより、額に飾られた絵の景色が入れ替わったくらいの違いだった。

もうすぐ夏休みというある日。
「花火大会行かない?」
と早紀に誘われた。
「たまには息抜きしない?」
「そうだね」
「やった、楽しみ」
早紀は嬉しそうだった。

駅で早紀と待ち合わせをした。
壁に持たれて待っていると、浴衣を着た早紀が小さく手を振って近づいてきた。
「浴衣じゃん」
「どうかな」
早紀は照れくさそうに上目遣いで俺を見る。
「かわいい」
そう言うと早紀の顔は少し赤くなった。
「その柄、夏っぽくていいね」
「ありがとう」
早紀ははにかんだ。
「ちょっと頑張った。歩に釣り合いたいから」

また言ってる。
釣り合うって。
なんでそんなこと考えるんだろう。
早紀は早紀じゃん。

「歩、やっぱかっこいいね。その服すっごく似合ってる」
「そうかな」
「うん、何着てもかっこいい」
別にどうってことのない服だ。
白いシャツも、いつも履いているジーパンも、着やすいから選んだだけ。
服を褒められているのに、服を見てもらっていない気がしてなんだか不思議だった。

早紀といっしょに電車に乗る。
花火大会に行く人たちで少し混んでいた。
早紀がよろけないように手を握った。
電車のドアにもたれながら外を眺める。
もうすぐ18時なのに、まだまだ明るかった。
「かっこいい」
「モデルみたい」
ひそひそ話が聞こえてきた。
視線を感じる。
またか。
流れる町の景色を眺め続けた。

花火会場に着くと、屋台がずらりと並び人が行き交っていた。
「はぐれないでね」
早紀の手をしっかり握る。
「うん」
屋台の人たちが手を叩きながら「いらっしゃい」「おいしいよ」と呼び込んでいた。
「なにか食べる?」
「うん」
早紀はきょろきょろと屋台を眺める。
「屋台の食べ物って、全部おいしそうに見えるよね」
「そうだね」
「歩は何食べたい?」
「俺はなんでもいいよ」
「うーん、じゃ、たこ焼きとか?」
「いいね」
屋台でたこ焼きをひとつ買って、ふたりでつつく。
「あっつ」
「大丈夫?」
熱くてしゃべれない。
はふはふして、なんとか飲み込んだ。
「またやけどした」
そう言って舌を出すと、早紀は笑った。