これからの色

あれから数日、俺たちは何も話さなかった。
俺も早紀も、何を話せばいいのかわからなくなってしまった。
日を重ねるごとに、実感していった。
もう、戻れないんだ。
図書室の椅子にもたれ、息を吐いた。
吹奏楽部の練習の音が、いやに大きく聞こえた。

もう。
早紀の隣を歩く理由を見つけられなくなっていた。

学校の帰り。
家へ向かう電車に乗る気になれず、その駅で降りた。
特に理由はない。
ただ、少しだけ違う景色が見たかった。
夕方の駅前通りは、仕事帰りの人たちで賑わっていた。
あてもなく歩いていると、ショーウィンドウが目に入った。
マネキンは真冬のコートを着ている。
『歩、やっぱかっこいいね。その服すっごく似合ってる』
早紀が俺を見て言ってた。

似合うって、褒め言葉、だよな?

そんなことを思いながら、店の中に入った。
「いらっしゃいませーどうぞご覧くださぁい」
独特のイントネーションの店員さんに声をかけられた。
あ。
まただ。
視線を感じる。
「広げて見てみてくださいねー」
「はい」
店の中を見回す。

鏡の前でセーターをあてがっている人。
両手にパンツを持って眺めて悩んでいる人。
きっとみんな。
自分に似合うものを探してるんだよな。

たまたま目の前にあったグレーのセーターを広げる。
「よく似合うと思いますよー」
店員さんが言った。

……。
似合わないといけないのかな。
何を身につけても。
『似合う』
『かっこいい』
そう言われてきたけど。
それは間違いなく褒め言葉なんだけど。

ちょっとだけ。
手放したいかも。

そうしたら、俺自身を見てもらえるのかも。

グレーのセーターを置いて、店内を歩いた。
目を引いたのは、目の覚めるようなグリーンのカーディガン。
幾何学模様が入っていて、おもしろい。
不思議とわくわくした。

派手な緑のカーディガンを手に取った俺に、
「少し思い切ったデザインですけど、お客様はスタイルがいいからなんでも似合うと思いますよ」
と店員さんは言った。

そうだよな。
みんな、似合う服を探しにきてるんだから。
そう言うよね。

これ、似合うかどうかはわからない。
だけど、この服、おもしろい。
着てみたい。
その方がきっと、わくわくする。

「これ、ください」

店を出る。
俺は店員さんに手渡された紙袋を見下ろした。
この中に新しい自分がつまってる気がした。
夕方の風は、来た時と変わらない。
それでも、景色が少しだけ違って見えた。