これからの色

放課後、いつもどおり閉館になった図書室を出て昇降口へ行くと、早紀が待っていた。
「待たせてごめん」
「ううん」
並んで歩く。
校門を出ていつもどおり駅へ向かおうとする早紀に、
「……少し寄り道してもいい?」
と右を指差した。
「うん」
早紀はいつもより口数が少なかった。

川の堤防を歩く。
川風を感じる。
空は茜色。
カラスが鳴いていた。
電車がゆっくりと鉄橋に近づく。
草むらにいた鳥が羽ばたいた。
「びっくりしたのかな」
鳥を目で追う。
「そうだね」
早紀は鳥を目で追った後、俺の横顔を見つめた。
静かな時間が流れる。
電車の音は遠ざかっていた。

「俺さ」
そこまで言って、次の言葉が出てこない。

「うん」
早紀は言葉を待っている。
俺はふぅと息を吐いた。

「最近さ……自分でもよくわかんないんだけど」
「うん」

うつむく。
自分の黒いスニーカーと並んで歩く紺色のスニーカーが目に入った。

「かっこいい、とか、似合う、とか言われると、なんか……苦しくて」
「え?」

早紀が戸惑っているのがわかった。
「私も言っちゃってたよね……」
「違う。早紀が悪いとかじゃなくて」
「どういうこと?」
唇をきゅっと結んだ。

「……うまく言えないんだけど」
「うん」
「俺は、すごく普通なのに……」
「うん」
「こんなこと、自分で言うのなんだけど……」
スニーカーを見つめる。
「かっこいいって言われる」
「うん」
「なんにも、かっこいいことなんかしてるつもりないのに」
「……」
「みんな、俺のことそうやって見る……」
「……ごめん」
「違う。早紀を責めたいんじゃない」
「でも……」
そう言うと早紀は黙った。

「私……歩のこと、ちゃんと見てるよ」
「うん……でも……苦しい」

川風が通り抜ける。

「俺、早紀と図書室で話してた時間、好きだった」
「うん」
「でも最近は……どんな話をしてても、最後には『かっこいい』になってる気がして……」
「……」

夕日が沈みかけている。
空のグラデーションが切ない。
その時、学ランの袖をきゅっと掴まれた。
足を止める。

「じゃあ、私は……なんて言えばよかったの?」
早紀は、困惑した顔で俺を見上げる。
「……わからない」
目を合わせられなかった。
「私……歩が笑ってくれたら嬉しい。かっこいいって思ったら伝えたい」
「うん」
「……それじゃ、ダメかな?」

早紀の視線が、つらい。
「だめじゃない、けど……」
自分でもうまく言葉にできなかった。

川はとうとうと流れている。

早紀は袖を掴んでいた手をそっと離した。

俺はもう、その手を握れなかった。