まだ明るさが残っているけれど、街灯の明かりが際立ってくるほどには夕闇が迫ってきているころ。
太陽の残り香のような橙色と、夜の帳の裾のような紫色のグラデーションを背景に、彼女は朝よりも大きなビニール袋を持ってそこにいた。
まさか、夜も来るとは……。
急いで来たのか、軽く息を切らせている朝霞さんは、ドアを開けた俺に持っていたビニール袋を突き出してきた。
「あのっ、これ! 夕飯と、明日の朝とお昼の分っ」
「へ?」
まさかと驚いていた俺は、朝と同様咄嗟に突き出されたビニール袋を受け取ってしまう。
目を白黒させて戸惑っている俺に、朝霞さんは続けた。
「遅くなっちゃってごめんね? もう夕飯食べちゃったかな?」
問いかけながら、これでもかというほど眉間を絞って眉をハの字にする朝霞さん。その顔には、焦りと悲しみに近い感情が表れている気がした。
その表情が、俺の「いや、これから用意しようとしていたとこだけど」という言葉で安堵の笑みに変わる。
「よかったー。無駄になっちゃうかなって焦っちゃった」
「無駄にって……」
ビニール袋は受け取ってしまったけれど、まだいただくとは言っていない。
反論しようか一瞬思ったけれど、安心した笑顔を見るといらないとは言えなくなってしまう。
それに、今朝貰ったご飯は美味しかったから、夜も美味しいご飯がいただけるのは純粋に嬉しかった。
とはいえ、あまり世話になるのもよくない。
俺は一つ息を吐いてから、食事の用意は不要だということを伝えた。
「ありがとう。でも、もういいから。微熱くらいには熱も下がったし、自分のことは自分でできるし」
「え……」
「こんなに用意して持ってくるのは大変だろ? ここまでしてくれなくてもいいから」
感謝は素直に伝えて、いらない理由をちゃんと言葉にする。
でも、俺の話に目の前にあった笑顔が目に見えて悲し気なものになった。眉がまたハの字になろうとしている。
「ごめん、迷惑だったかな?」
「え!? いや、迷惑ってわけじゃ! 助かったのは事実だし、美味しかったし!」
今まで無視してきたのに食事まで作って助けてくれる朝霞さんへの罪悪感もあり、俺は慌てて否定の言葉を発した。
そのおかげか、朝霞さんはまた笑顔を形作る。
「よかった……また、美味しいって言ってもらえた」
「え? また?」
またってどういうことだ? 前にも朝霞さんの料理を食べたことあったっけ? と疑問に思う俺に、彼女は恐る恐るといった様子でひとつ提案してきた。
「じゃあ、夕飯だけでも持ってきていいかな? 迷惑じゃなければ……」
「まあ、夕飯だけなら……」
また悲しそうな顔をさせたくなくてつい頷いてしまったけれど、本当に朝霞さんはなんで俺に構うんだ?
友だちでもないし、もともとそんなに話す間柄でもない。そんな相手に避けられて無視までされたら、普通は諦めて距離を取るんじゃないか?
疑問が増えて困惑するけれど、それを直球で聞く気には今はなれなくて、俺は口をつぐんだ。
すると自分の提案が通ったからか、朝霞さんは表情をほころばせふわりとした笑みを見せる。
その様子が、今は夜が近いということもあり、夜にしか咲かない月下美人を思わせて……つい、見惚れてしまった。
かわいくて、綺麗だ。
純粋に、ただそう思った。
「じゃあ、明日も夕方ころに来るね」
「え、あ、うん」
声をかけられ、突然現実に引き戻されたみたいにハッとした俺は、ぎこちなく頷く。そのまま帰って行く朝霞さんの背中をぼうっと見つめていた。
その姿が完全に見えなくなってから、俺は自分の失敗に気づく。
「あ、空のタッパー返すの忘れた……」
太陽の残り香のような橙色と、夜の帳の裾のような紫色のグラデーションを背景に、彼女は朝よりも大きなビニール袋を持ってそこにいた。
まさか、夜も来るとは……。
急いで来たのか、軽く息を切らせている朝霞さんは、ドアを開けた俺に持っていたビニール袋を突き出してきた。
「あのっ、これ! 夕飯と、明日の朝とお昼の分っ」
「へ?」
まさかと驚いていた俺は、朝と同様咄嗟に突き出されたビニール袋を受け取ってしまう。
目を白黒させて戸惑っている俺に、朝霞さんは続けた。
「遅くなっちゃってごめんね? もう夕飯食べちゃったかな?」
問いかけながら、これでもかというほど眉間を絞って眉をハの字にする朝霞さん。その顔には、焦りと悲しみに近い感情が表れている気がした。
その表情が、俺の「いや、これから用意しようとしていたとこだけど」という言葉で安堵の笑みに変わる。
「よかったー。無駄になっちゃうかなって焦っちゃった」
「無駄にって……」
ビニール袋は受け取ってしまったけれど、まだいただくとは言っていない。
反論しようか一瞬思ったけれど、安心した笑顔を見るといらないとは言えなくなってしまう。
それに、今朝貰ったご飯は美味しかったから、夜も美味しいご飯がいただけるのは純粋に嬉しかった。
とはいえ、あまり世話になるのもよくない。
俺は一つ息を吐いてから、食事の用意は不要だということを伝えた。
「ありがとう。でも、もういいから。微熱くらいには熱も下がったし、自分のことは自分でできるし」
「え……」
「こんなに用意して持ってくるのは大変だろ? ここまでしてくれなくてもいいから」
感謝は素直に伝えて、いらない理由をちゃんと言葉にする。
でも、俺の話に目の前にあった笑顔が目に見えて悲し気なものになった。眉がまたハの字になろうとしている。
「ごめん、迷惑だったかな?」
「え!? いや、迷惑ってわけじゃ! 助かったのは事実だし、美味しかったし!」
今まで無視してきたのに食事まで作って助けてくれる朝霞さんへの罪悪感もあり、俺は慌てて否定の言葉を発した。
そのおかげか、朝霞さんはまた笑顔を形作る。
「よかった……また、美味しいって言ってもらえた」
「え? また?」
またってどういうことだ? 前にも朝霞さんの料理を食べたことあったっけ? と疑問に思う俺に、彼女は恐る恐るといった様子でひとつ提案してきた。
「じゃあ、夕飯だけでも持ってきていいかな? 迷惑じゃなければ……」
「まあ、夕飯だけなら……」
また悲しそうな顔をさせたくなくてつい頷いてしまったけれど、本当に朝霞さんはなんで俺に構うんだ?
友だちでもないし、もともとそんなに話す間柄でもない。そんな相手に避けられて無視までされたら、普通は諦めて距離を取るんじゃないか?
疑問が増えて困惑するけれど、それを直球で聞く気には今はなれなくて、俺は口をつぐんだ。
すると自分の提案が通ったからか、朝霞さんは表情をほころばせふわりとした笑みを見せる。
その様子が、今は夜が近いということもあり、夜にしか咲かない月下美人を思わせて……つい、見惚れてしまった。
かわいくて、綺麗だ。
純粋に、ただそう思った。
「じゃあ、明日も夕方ころに来るね」
「え、あ、うん」
声をかけられ、突然現実に引き戻されたみたいにハッとした俺は、ぎこちなく頷く。そのまま帰って行く朝霞さんの背中をぼうっと見つめていた。
その姿が完全に見えなくなってから、俺は自分の失敗に気づく。
「あ、空のタッパー返すの忘れた……」



