クソ爽やかモドキ…改めて爽やかモドキは美羽に話しかけなくなった。挨拶はする。けれど、それ以上は踏み込まない。まるで、はっきりと線を引いているみたいだった。――これでいい。これでいいはずだ。美羽も、以前と変わらない。そう思っていた。
そして、五月。もうすぐゴールデンウィークが始まる。そんなある日の放課後だった。
「めっちゃ可愛いねー。ゴールデンウィークにさ、うちの別荘でパーティーするんだけど、君も来ない?」
聞き慣れない男の声。振り返ると、そこにいたのは三年生だった。進藤玲央(しんどう れお)。見るからにチャラそうな男。親が金持ちで、何か問題を起こしても金で解決する。女関係も派手で、誰彼構わず手を出すことで有名だ。――最低最悪の男。チャラクソ御曹司と名付ける。そんな厄介な奴が近づいてきた。
「ごめんなさい」
美羽は、いつものようにふんわりと笑って断る。けれど、進藤は引かなかった。
「えー、いいじゃん。俺、誰にでも声かけてるわけじゃないんだよ?」
へらへらと笑いながら、美羽に近づく。
「可愛い子だけ。と・く・べ・つ」
そして――美羽の腕へ、手を伸ばした。その瞬間。僕は迷わず二人の間に入った。
「やめてください」
低い声で告げる。チャラクソ御曹司が目を丸くした。
「……お、おう。びっくりした」
僕を上から下まで眺める。
「あー、もしかして彼氏?」
にやりと笑った。
「なんだ、ごめんねー」
そう言って、ひらひらと手を振りながら去っていく。その背中を見送っていると、
「むっくん」
服の裾を、ちょんと引かれた。振り返る。美羽が僕を見上げている。不安そうに。
「大丈夫?」
「うん。ありがとう」
ほっとしたように、美羽がふわりと笑う。
「あまりにもしつこくて……助かった」
――ああ。やっぱり、可愛い。儚い。このまま一人にしておいたら、また誰かが近づいてくる。こんなに可愛くて。こんなに優しくて。こんなにも、僕を狂わせる。心配だ。……いや。心配なら、答えは簡単じゃないか。ずっと僕のそばにいればいい。そうすれば、誰にも傷つけられない。
◇
「久しぶりに、うち来る?」
そう誘うと、美羽は嬉しそうに頷いた。
「いいの?」
「もちろん。美羽のためにアップルパイ用意してあるよ」
美羽の両親が、ゴールデンウィーク中に祖父母の家へ行くことは、すでに確認している。つまり、美羽はしばらく一人になる。そんなの、危険すぎる。チャラクソ御曹司みたいな奴が、また現れないとも限らない。だから――。今しかない。僕の家なら安全だ。誰にも邪魔されない。美羽を傷つける人間もいない。僕がずっとそばにいられる。幸い僕は、幼い頃に両親を亡くしてから親戚中をたらい回しにされ、今は一人暮らしをしている。お金には困っていない。両親の遺産もあるし、投資もしている。家に招き入れた美羽に、紅茶を淹れる。それから、アップルパイを用意した。
「わあ……美味しそう」
「美羽、好きでしょ?」
「うん。ありがとう、むっくん」
美羽は嬉しそうにフォークを手に取った。楽しそうに話をする。いつものように笑う。僕も笑う。――穏やかだ。これでいい。ここなら安全だ。誰も美羽を奪いに来ない。やがて、美羽の瞼がゆっくりと落ちていく。
「……あれ?」
「眠くなった?」
「うん……なんか、急に……」
美羽が小さくあくびをした。
「ちょっと、休む?」
「……うん」
美羽のはソファへゆっくりと寝転ぶ。スーッと聞こえてきた寝息に、ブランケットをかける。
「おやすみ、美羽」
静かになった部屋。眠る美羽を見つめる。ずっと、こうしていればいい。誰にも邪魔されず。誰にも傷つけられず。僕だけが、美羽を守る。――そうすれば。僕たちは、ずっと一緒にいられる。
そして、五月。もうすぐゴールデンウィークが始まる。そんなある日の放課後だった。
「めっちゃ可愛いねー。ゴールデンウィークにさ、うちの別荘でパーティーするんだけど、君も来ない?」
聞き慣れない男の声。振り返ると、そこにいたのは三年生だった。進藤玲央(しんどう れお)。見るからにチャラそうな男。親が金持ちで、何か問題を起こしても金で解決する。女関係も派手で、誰彼構わず手を出すことで有名だ。――最低最悪の男。チャラクソ御曹司と名付ける。そんな厄介な奴が近づいてきた。
「ごめんなさい」
美羽は、いつものようにふんわりと笑って断る。けれど、進藤は引かなかった。
「えー、いいじゃん。俺、誰にでも声かけてるわけじゃないんだよ?」
へらへらと笑いながら、美羽に近づく。
「可愛い子だけ。と・く・べ・つ」
そして――美羽の腕へ、手を伸ばした。その瞬間。僕は迷わず二人の間に入った。
「やめてください」
低い声で告げる。チャラクソ御曹司が目を丸くした。
「……お、おう。びっくりした」
僕を上から下まで眺める。
「あー、もしかして彼氏?」
にやりと笑った。
「なんだ、ごめんねー」
そう言って、ひらひらと手を振りながら去っていく。その背中を見送っていると、
「むっくん」
服の裾を、ちょんと引かれた。振り返る。美羽が僕を見上げている。不安そうに。
「大丈夫?」
「うん。ありがとう」
ほっとしたように、美羽がふわりと笑う。
「あまりにもしつこくて……助かった」
――ああ。やっぱり、可愛い。儚い。このまま一人にしておいたら、また誰かが近づいてくる。こんなに可愛くて。こんなに優しくて。こんなにも、僕を狂わせる。心配だ。……いや。心配なら、答えは簡単じゃないか。ずっと僕のそばにいればいい。そうすれば、誰にも傷つけられない。
◇
「久しぶりに、うち来る?」
そう誘うと、美羽は嬉しそうに頷いた。
「いいの?」
「もちろん。美羽のためにアップルパイ用意してあるよ」
美羽の両親が、ゴールデンウィーク中に祖父母の家へ行くことは、すでに確認している。つまり、美羽はしばらく一人になる。そんなの、危険すぎる。チャラクソ御曹司みたいな奴が、また現れないとも限らない。だから――。今しかない。僕の家なら安全だ。誰にも邪魔されない。美羽を傷つける人間もいない。僕がずっとそばにいられる。幸い僕は、幼い頃に両親を亡くしてから親戚中をたらい回しにされ、今は一人暮らしをしている。お金には困っていない。両親の遺産もあるし、投資もしている。家に招き入れた美羽に、紅茶を淹れる。それから、アップルパイを用意した。
「わあ……美味しそう」
「美羽、好きでしょ?」
「うん。ありがとう、むっくん」
美羽は嬉しそうにフォークを手に取った。楽しそうに話をする。いつものように笑う。僕も笑う。――穏やかだ。これでいい。ここなら安全だ。誰も美羽を奪いに来ない。やがて、美羽の瞼がゆっくりと落ちていく。
「……あれ?」
「眠くなった?」
「うん……なんか、急に……」
美羽が小さくあくびをした。
「ちょっと、休む?」
「……うん」
美羽のはソファへゆっくりと寝転ぶ。スーッと聞こえてきた寝息に、ブランケットをかける。
「おやすみ、美羽」
静かになった部屋。眠る美羽を見つめる。ずっと、こうしていればいい。誰にも邪魔されず。誰にも傷つけられず。僕だけが、美羽を守る。――そうすれば。僕たちは、ずっと一緒にいられる。

