雪のように白い肌。桃色に染まった頬。長い睫毛に、ぱっちりとした二重の瞳。お人形さんみたいにふわふわとした、色素の薄い茶色の髪。――ああ、なんでこんなに可愛いんだろう。なんで、こんなに素敵なんだろう。僕は高校二年生、神原椋(かんばら むく)。そして、幼馴染の白雪美羽(しらゆき みゆ)が、好きで、好きで、好きでたまらない。部屋に並べられた、彼女の写真。ご飯を食べているところ。眠そうにあくびをしているところ。普段かけない眼鏡をくいっと押し上げているところ。どれも僕にとっては、宝物だ。ヘッドホンを耳に押し当てる。
『おはよう、美羽。ご飯は?』
『寝坊したからいいやぁ。もう行く』
さて、そろそろ僕も出るか。どうやら僕の愛おしいお姫様は、昨夜遅くまでゾンビを倒すゲームをしていたらしい。あんなに可愛らしくて、ふわふわしているのに、ホラー映画もゲームも平気なところもまた、いい。鞄を背負い、家を出る。そして、いつものように――偶然を装って、彼女の家の近くを通った。
「おはよう、美羽」
「あ、おはよ。むっくん」
ふわりと笑う。春の穏やかな風が、彼女の髪を揺らした。長い髪が風に溶けていくようで、綺麗で、美しい。――ああ。なんて可憐なんだろう。彼女がいるだけで、この世界はこんなにも鮮やかで、素晴らしいものに見える。
「美羽」
「なに?」
「これ、あげる」
そう言って、紙袋を差し出す。
「なにこれ?」
美羽が袋の中を覗き込んだ。
「わあ!クロワッサンだ!美味しそう」
嬉しそうに目を輝かせる。美羽がクロワッサンを好きなのは知っている。昨日の夜遅くまでゲームをしていたことも、朝は寝坊するだろうことも。だから、朝食を食べ損ねることくらい、簡単に想像できた。昨夜から仕込んで、今朝焼き上げたばかりのクロワッサン。
「よかったらあげる。作りすぎちゃったから」
もちろん、作りすぎたわけじゃない。美羽のために作ったのだから。
「嬉しいなぁ。今日、朝ごはん食べ損ねたから。私、ラッキーだね」
美羽はにこっと笑って、大事そうに紙袋を抱えた。その姿を見て、胸の奥が満たされていく。
二人並んで歩き、学校へ向かう。やがて校門が見えてきた。ああ。二人だけの穏やかな時間が、終わってしまう。
「おはよう!美羽」
「おはよう」
校門に入るなり、美羽の周りにクラスメイトが集まってくる。それはそうだ。だって、美羽はこんなにも可愛くて、穏やかで、性格もいい。誰からも愛される。――それが、僕には面白くない。いっそ、みんなに嫌われて孤立している方がいい。そうすれば僕しか見えないのに。
「あ、神原くんもおはよう」
……も。明らかに、おまけ。僕は軽く頭を下げる。その間にも、美羽は佐藤梓(さとう あずさ)と矢野桃子(やの ももこ)と一緒に歩いていく。僕は、その数歩後ろを歩いた。
「毎日仲良いよね~。付き合ってるの?」
佐藤が美羽の肩をこづく。
「違うよ~。たまたま会ったんだよね。ねー、むっくん」
そう言って、美羽がくるりと振り返る。そして、笑う。――不意打ちは、ずるい。
「うん」
僕も頷いた。たまたま、ではないけれど。毎日、計算している。家から学校までの道のり。歩く速度。その日の天気。美羽の体調。彼女が何時に家を出るのか。どこを通るのか。僕は、ほとんど全部知っている。
そしてその隣 佐藤梓。ショートカットで、中学からの美羽の親友。陸上部で明るく、男女問わず人気がある。裏表のない性格だけど、発言に少しデリカシーがない。以前、美羽が大切にしていたナマケモノシリーズのぬいぐるみを、「これ、ぶさいくだね」なんて言ったことがある。ちなみに、今も美羽のスクールバッグについているそのナマケモノは、僕がプレゼントしたものだ。だから――デリカシーなし女。
そして、その隣にいるのが矢野桃子。小柄でボブヘア。やたらと美羽に触りたがる。自分が一番可愛いと思っている、いわゆる勘違いぶりっ子タイプだ。今日も、
「美羽って可愛いよね~。ふわふわしてて」
なんて言いながら、美羽にべったりくっついている。そのくせ、男子の視線をちらちら確認している。萌え袖までして、『私、小動物みたいでしょ? 守りたくなるでしょ?』
とでも言いたげだ。美羽を引き立て役にしているつもりなのだろう。――自分が引き立て役になっていることにも気づかずに。でも、二人とも美羽に危害を加えるつもりはない。だから、問題ない。
僕はクラスメイトについて、全て調べ尽くしている。性格。部活。交友関係。家庭環境。美羽に近づく人間が、彼女にとって安全な人間なのか。それを知るためだ。教室に入ると美羽の周りにはさらに人が集まってくる。
「おはよう、白雪」
その声に、僕は顔を上げた。焼けた肌。白い歯。爽やかな笑顔。風見信(かざみ しん)。今、一番の要注意人物だ。勉強もできる。運動もできる。顔もいい。そのうえ性格までいい。周囲からの信頼も厚い。まるで少女漫画からそのまま出てきたような、絵に描いたようなヒーロー。――クソ爽やかモドキ。僕は、そう呼んでいる。
「おはよう、風見くん」
美羽が笑う。その瞬間。胸の奥が、ざわりと揺れた。……その笑顔を、そんな簡単に他の男に向けないでよ。僕が一番近くにいるのに。僕が一番、美羽のことを知っているのに。どうして――。風見信は、美羽の隣に立っている。
『おはよう、美羽。ご飯は?』
『寝坊したからいいやぁ。もう行く』
さて、そろそろ僕も出るか。どうやら僕の愛おしいお姫様は、昨夜遅くまでゾンビを倒すゲームをしていたらしい。あんなに可愛らしくて、ふわふわしているのに、ホラー映画もゲームも平気なところもまた、いい。鞄を背負い、家を出る。そして、いつものように――偶然を装って、彼女の家の近くを通った。
「おはよう、美羽」
「あ、おはよ。むっくん」
ふわりと笑う。春の穏やかな風が、彼女の髪を揺らした。長い髪が風に溶けていくようで、綺麗で、美しい。――ああ。なんて可憐なんだろう。彼女がいるだけで、この世界はこんなにも鮮やかで、素晴らしいものに見える。
「美羽」
「なに?」
「これ、あげる」
そう言って、紙袋を差し出す。
「なにこれ?」
美羽が袋の中を覗き込んだ。
「わあ!クロワッサンだ!美味しそう」
嬉しそうに目を輝かせる。美羽がクロワッサンを好きなのは知っている。昨日の夜遅くまでゲームをしていたことも、朝は寝坊するだろうことも。だから、朝食を食べ損ねることくらい、簡単に想像できた。昨夜から仕込んで、今朝焼き上げたばかりのクロワッサン。
「よかったらあげる。作りすぎちゃったから」
もちろん、作りすぎたわけじゃない。美羽のために作ったのだから。
「嬉しいなぁ。今日、朝ごはん食べ損ねたから。私、ラッキーだね」
美羽はにこっと笑って、大事そうに紙袋を抱えた。その姿を見て、胸の奥が満たされていく。
二人並んで歩き、学校へ向かう。やがて校門が見えてきた。ああ。二人だけの穏やかな時間が、終わってしまう。
「おはよう!美羽」
「おはよう」
校門に入るなり、美羽の周りにクラスメイトが集まってくる。それはそうだ。だって、美羽はこんなにも可愛くて、穏やかで、性格もいい。誰からも愛される。――それが、僕には面白くない。いっそ、みんなに嫌われて孤立している方がいい。そうすれば僕しか見えないのに。
「あ、神原くんもおはよう」
……も。明らかに、おまけ。僕は軽く頭を下げる。その間にも、美羽は佐藤梓(さとう あずさ)と矢野桃子(やの ももこ)と一緒に歩いていく。僕は、その数歩後ろを歩いた。
「毎日仲良いよね~。付き合ってるの?」
佐藤が美羽の肩をこづく。
「違うよ~。たまたま会ったんだよね。ねー、むっくん」
そう言って、美羽がくるりと振り返る。そして、笑う。――不意打ちは、ずるい。
「うん」
僕も頷いた。たまたま、ではないけれど。毎日、計算している。家から学校までの道のり。歩く速度。その日の天気。美羽の体調。彼女が何時に家を出るのか。どこを通るのか。僕は、ほとんど全部知っている。
そしてその隣 佐藤梓。ショートカットで、中学からの美羽の親友。陸上部で明るく、男女問わず人気がある。裏表のない性格だけど、発言に少しデリカシーがない。以前、美羽が大切にしていたナマケモノシリーズのぬいぐるみを、「これ、ぶさいくだね」なんて言ったことがある。ちなみに、今も美羽のスクールバッグについているそのナマケモノは、僕がプレゼントしたものだ。だから――デリカシーなし女。
そして、その隣にいるのが矢野桃子。小柄でボブヘア。やたらと美羽に触りたがる。自分が一番可愛いと思っている、いわゆる勘違いぶりっ子タイプだ。今日も、
「美羽って可愛いよね~。ふわふわしてて」
なんて言いながら、美羽にべったりくっついている。そのくせ、男子の視線をちらちら確認している。萌え袖までして、『私、小動物みたいでしょ? 守りたくなるでしょ?』
とでも言いたげだ。美羽を引き立て役にしているつもりなのだろう。――自分が引き立て役になっていることにも気づかずに。でも、二人とも美羽に危害を加えるつもりはない。だから、問題ない。
僕はクラスメイトについて、全て調べ尽くしている。性格。部活。交友関係。家庭環境。美羽に近づく人間が、彼女にとって安全な人間なのか。それを知るためだ。教室に入ると美羽の周りにはさらに人が集まってくる。
「おはよう、白雪」
その声に、僕は顔を上げた。焼けた肌。白い歯。爽やかな笑顔。風見信(かざみ しん)。今、一番の要注意人物だ。勉強もできる。運動もできる。顔もいい。そのうえ性格までいい。周囲からの信頼も厚い。まるで少女漫画からそのまま出てきたような、絵に描いたようなヒーロー。――クソ爽やかモドキ。僕は、そう呼んでいる。
「おはよう、風見くん」
美羽が笑う。その瞬間。胸の奥が、ざわりと揺れた。……その笑顔を、そんな簡単に他の男に向けないでよ。僕が一番近くにいるのに。僕が一番、美羽のことを知っているのに。どうして――。風見信は、美羽の隣に立っている。

