「いらっしゃいませ!」
「……おう」
オリハラの言葉に相変わらず、素っ気なく返事をするデレゴレだが、ほんの少しだけその表情は柔らかくなった。
とはいえ、ほんの少しであり、オリハラやヴァン以外は気付かない変化である。
あの日から、なにか大きな変化がデレゴレとオリハラにあったわけではない。
いつものようにイル・ココに来たデレゴレは、いつものようにパンとスープを注文する。それだけである。
だが、オリハラとデレゴレ以外には大きな変化があったのだ。
「おう、デレゴレ。なんだ、なんだ? おめぇはまたそんな奥の細まったとこで飯を食ってよぉ! こっちで食えばいいじゃねぇか」
「だよなぁ。ほら、こっち! オリハラ、パンとスープはこっちのテーブルに持ってきてくれよ」
「……おい、俺は――」
そう言いかけたデレゴレだが、ヴァンがパンの入ったカゴを向こうのテーブルへと持っていってしまう。
ため息をついたデレゴレだが、仕方がないと諦めたのか、向こうのテーブルへと移る。
「なぁ、デレゴレ。お前、最近すごく評判がいいぞ」
「なんでも、落とし物をちゃんと届けたんだろ? 大事なお守りが入ってたって落とし主が感謝していたらしいじゃないか」
「…………それは当然だろう」
ぼそりと言ったデレゴレに、周囲の男達が嬉しそうに笑う。
会話を交わすこともなかったため、デレゴレのことを周囲の人々は誤解していたのだ。
そんな様子にオリハラがにへりと笑って、デレゴレ達のテーブルへと歩いてくる。
招かれ人である彼もまた、人々の誤解を受けつつ、笑顔をたやさない。
しなやかな強さをオリハラは持っているのだ。
彼は異国の地でスープを作る。
それを味わってくれる人のために、毎日だ。
ことりと置かれた皿からは良い香りが漂う。
「お客様、本日のスープはいかがですか?」

