本日のスープはいかがですか?

「……今、なんて言った?」

 その低い声には怒りが滲む。
 それを悟った他の客達や店員達もどうしてよいのかと、怒る男とその怒りをむけられた店員を不安げに見守る。
 しかし、店員である青年は男の怒りに戸惑いつつも、ひるむ様子はない。
 この辺りではめずらしい黒髪の青年は、ただじっと怒る男を見つめる。

「もう一度……もう一度、このスープの名を言ってみろ。お前は俺にふさわしいスープを作ると言っていたよな?」

 男の言葉を受けて、黒髪の青年の表情に笑みが浮かぶ。
 騒ぎを聞きつけ、様子を見守っていた料理人は少々抜けた青年の笑みに苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

「――まずいな。あのバカ、この状況を把握してねぇぞ」

 料理人の考えは的中する。
 男の怒りに戸惑っていた黒髪の青年は、自身が作ったスープに関心が移ったのが嬉しいのか、にこにこと人の好い笑顔で答える。

「はい! アホスープ、これはアホスープといいます!」

 その瞬間、男の怒りが頂点に達する。

「て、てめぇ……!」
「お、落ちつけ! お前らも手伝え!」
「おう! やめろ、!」

 怒る男の名はデレゴル。
 押さえつけられるデレゴルを見て、スープを用意した黒髪の青年オリハラは目を大きく見開いたまま、固まる。
 そんなデレゴルとオリハラ、そして店の混乱ぶりに料理人であるヴァンは深いため息を溢すのだった。