巻き込まれる僕ら

「わんわん!」
「わっ」

茶色の毛の大型犬が飛びついて来て、危うくひっくり返るところだった。

「ハント! また抜け出してきたのか!」
「抜け出して?」
「うちの犬なの! こんな大きいのに、めちゃくちゃ寂しがり屋でさあ。隙あらば家から抜け出して俺のとこに来ちゃうの」
「葉山くんのところに?」
「ハントは賢いから、昼間は俺が学校にいるって覚えたんだろうな。俺に一番懐いてるもんなー、ハント!」

言い終わらないうちに、ハントが石井くんに飛びついてひっくり返してしまう。

「やめなさい! ハント!」
「ふふっ。いいよ、葉山くん」
「ごめん、石井くん」

ハントが大きな舌でベロンベロン石井くんの顔を舐める。

「僕、猫派なんだけど犬も懐いてもらえるの」

石井くんは嬉しそうに笑う。
その笑顔に、高校に入学してすぐ、石井くんがスズメに謝られていたのを思い出した。

「石井くんは動物に好かれるんだね」
「僕の唯一の特技かも」
「きっと、動物には石井くんが優しい人だって分かるんだよ」

だって、賢いハントが初対面でここまで懐くんだもん。

石井くんは、微笑みながらハントの頭をなでた。

「うれしい。この子をなでたいってずっと思ってたから」
「そうなの? なんで?」
「僕、高校入学の時におばあちゃんに引き取られてこっちに来たんだけど、知ってる人がいなくて不安だったの。でも、この子と飼い主さんが楽しそうに走り回ってるの見かけて、すごく勇気をもらったんだ」
「うちの他にもビズラ飼ってる人いるんだ?!」
「ビズラっていうの?」
「うん。すげえ珍しい犬種だから飼えるのは奇跡ですよ、って言われたのに。商売上手だなあ」
「あはは!」

石井くんが初めて聞く高い声で笑った。

「どうかした?」
「ううん、なんでもない。本当にうれしいよ」
「そっか、良かった」

石井くんが本当に楽しそうで。

「ねえ。一年の時の教室って、廊下から何も見えなかったよね」
「うん。中庭の木しかなかったね」
「だけど、好きだった」
「うん、俺も」

好きだった。
クラスは違っても、廊下なら、石井くんの顔が見られた。

あの時は、俺の顔を見られることはないと思ってた。
だから、安心して横顔を見てた。

だけど、今は……。

「石井くん」

突如、辺り一面が無数のシャボン玉に取り囲まれた。
すぐに、無数のシャボン玉液で全身ベチャベチャになる。

「ギャハハハハ!」

校舎から、目黒軍団の笑い声が聞こえる。

「あいつら! ごめん、石井くん!」
「全然いいよ。綺麗だね、葉山くん」

太陽の光を受けてキラキラ輝くシャボン玉の中で笑う石井くんは、まるで童話の中の王子様みたいだった。