巻き込まれる僕ら

二年生の夏休み明け、俺は茶髪になった。

俺だって、目黒軍団なんだ! 茶髪で一軍でイケイケで、すごいんだ!

四月、目黒軍団四人が同じクラスになった祝いにと、瑠偉がブリーチを買ってくれた。
なのに実行する勇気が出ない俺を見かねて、三人がかりで染めてくれた。

これは、いい機会だ。
せっかく同じクラスになれたにもかかわらず、石井(いしい)くんと話すきっかけがない。

イメチェンして、石井くんに気付いてもらえたら……!

「似合うじゃん、コター」
「柴犬みたいでカワイイ~」
「柴犬はいじってるだろ!」

一年の時は女子とは業務連絡でしかしゃべったことなかったけど、目黒瑠偉のいるところ女子あり。
だが、放課後には一軍女子たちは部活のためいなくなる。男ばっかになって、ホッと息をついた。

「石井くんもやろうよ! 記憶力ゲーム!」

石井くん?!

瑠偉がひとつの紙コップに酢を注ぐ。
なぜか、教室の隅で大人しく本を読んでいただけの石井くんが五人目として輪に加わった。

「目黒、いきまーす! アメショ」
「アメショ、シンガプーラ」
「アメショ、シンガプーラ、エジプシャンマウ」
「待って、俺もう分かんないよ!」

何それ、覚えるだけで精一杯!
俺は犬派! 犬の種類ならたくさん知ってるのに!

「コタ、足短いのいるじゃん」
奏多(かなた)の家で飼ってるやつ」
「あ! アメショ、シンガプーラ、エジプシャンマウ、マンチカン!」
「オッケー! 次、石井くん!」
「アメショ、シンガプーラ、エジプシャンマウ……。エジプシャンマウ……」
「直前のやつが出ないパターン!」
「あるあるー」
「さーん、にーい、いーち。石井くん、アウトー!」

石井くんの手に紙コップが渡される。
石井くんは、ジーッと中の液体を見つめた。

「石井くん、無理しなくていいからね」

隣の石井くんにだけ聞こえる声量で言ったつもりが小さすぎたのか、石井くんは紙コップに口をつけるとグッと一気に逆さまにした。

「すげえ! 石井くん!」

石井くんは酢を口に含んだものの、飲み込めずに端正な顔を歪ませる。

俺が……俺が、マンチカンなんて石井くんの記憶に残らないワードを言ったせいで……!

ガッと石井くんの肩をつかみ、石井くんの柔らかい唇に口を押し付けた。
舌で固く閉ざされた口を開くと、流れ込んでくる酢にむせそうになる。

ダメだ! 今むせたら石井くんの顔を酢まみれにしてしまう!
石井くんから顔をそむけ、一気に飲み干した。

「げほっ。がほっ」
「さすがコタ!」
「かっけー!」
「そういうとこ大好き!」

盛り上がる三人に応えることもできず、咳が止まらない。

「葉山くん、お茶買いに行こう?」

心配そうに俺の顔を覗き込んだ石井くんが言った。