教室に戻ると無人だった。
5時間目と6時間目は水泳だったのだ。二人でプールの更衣室まで走った。
人けのない更衣室で大急ぎで着替える。隠している暇などなく、勢いよく全裸になり周平のほうをみないようにする。
冷たいプールの水に浸かると不思議と落ち着いた気分になった。プールは男女別で、見渡す限り男だけだ。残念。つまり男性の身体を見ても何ともない。これが女子だったら?
さっきまでのカウンセリングルームでの30分が幻か何かに思える。確かに女の子が好きで、男には興味はないのだ。
10分間の自由時間、とぷんとプールの片隅に沈み、水面の揺らぎを見上げる。つよい日差しはただ光の欠片になって、水面を漂っているだけだ。プールの底までは届かない。煩わしい事が多すぎる。
不意に足首を掴まれて蹴り飛ばす。
水面に上がると周平も続けて水面に上がり、ゴーグルを外した。水に濡れた整った唇、目の周りのゴーグルの跡。
「海霧、水のなかで何を考えてた? 」
「なにも」
「俺のことだろ」
どうにも、周平は自信過剰だ。
こんな日に限って、バイトは無く、遊んでくれそうな女の子もつかまらない。授業が終わり、駅までの道を歩く。控えめに言っても灼熱で、口を開く気にもならない。
「うちに来いよ」
「ヤダ」
「なんで」
「塩素臭えから風呂に入りたい」
「俺の家で入ればいいだろ。親はいねえし」
「周平、お前さぁ……」
辺りは下校中の高校生がそこかしこにいて、迂闊な事は口に出せない。
「来いよ。話したい」
後ろからパタパタと走ってくる軽い足音がした。
「周!待って!」小柄な女の子が走って来る。周平の元彼女の茉優だ。
「髪がすげー事になってる」乱れて顔にかかった茉優の髪を、周平が手で梳いて直した。
「私、来週から1年間留学するんだ。周には会って言おうと思って」
「1年も?どこ?」
「ニュージーランド」
「なんだよ、来週?早く言えよ」
「インスタ見てね」
「うん。ニュージーランドは冬?」
「そう。ねー、このあと買い物付き合って。火曜だからバイトないよね?」
「悪い。先約がある」
「断れば。私、ニュージーランドに行っちゃうんだよ」
「俺は全然今度でいいから、周平は茉優と行けよ」
「海霧ありがとう。行こ!」
助かった、というのが本音だ。
時間が欲しかった。周平の家に行きたくは無い。
茉優に手をつながれた周平が、肩越しにこちらを振り返ったので手を振る。
周平の口元が動き『バーカ』と声を出さず、眉を顰め加減で言った。
自分がバカなのはわかっていた。コーラを一気飲みさえしなければ、こんなことにはならなかった。
暑くてたまらない。今週の金曜日が終われば夏休みだ。早く、終わればいい。
5時間目と6時間目は水泳だったのだ。二人でプールの更衣室まで走った。
人けのない更衣室で大急ぎで着替える。隠している暇などなく、勢いよく全裸になり周平のほうをみないようにする。
冷たいプールの水に浸かると不思議と落ち着いた気分になった。プールは男女別で、見渡す限り男だけだ。残念。つまり男性の身体を見ても何ともない。これが女子だったら?
さっきまでのカウンセリングルームでの30分が幻か何かに思える。確かに女の子が好きで、男には興味はないのだ。
10分間の自由時間、とぷんとプールの片隅に沈み、水面の揺らぎを見上げる。つよい日差しはただ光の欠片になって、水面を漂っているだけだ。プールの底までは届かない。煩わしい事が多すぎる。
不意に足首を掴まれて蹴り飛ばす。
水面に上がると周平も続けて水面に上がり、ゴーグルを外した。水に濡れた整った唇、目の周りのゴーグルの跡。
「海霧、水のなかで何を考えてた? 」
「なにも」
「俺のことだろ」
どうにも、周平は自信過剰だ。
こんな日に限って、バイトは無く、遊んでくれそうな女の子もつかまらない。授業が終わり、駅までの道を歩く。控えめに言っても灼熱で、口を開く気にもならない。
「うちに来いよ」
「ヤダ」
「なんで」
「塩素臭えから風呂に入りたい」
「俺の家で入ればいいだろ。親はいねえし」
「周平、お前さぁ……」
辺りは下校中の高校生がそこかしこにいて、迂闊な事は口に出せない。
「来いよ。話したい」
後ろからパタパタと走ってくる軽い足音がした。
「周!待って!」小柄な女の子が走って来る。周平の元彼女の茉優だ。
「髪がすげー事になってる」乱れて顔にかかった茉優の髪を、周平が手で梳いて直した。
「私、来週から1年間留学するんだ。周には会って言おうと思って」
「1年も?どこ?」
「ニュージーランド」
「なんだよ、来週?早く言えよ」
「インスタ見てね」
「うん。ニュージーランドは冬?」
「そう。ねー、このあと買い物付き合って。火曜だからバイトないよね?」
「悪い。先約がある」
「断れば。私、ニュージーランドに行っちゃうんだよ」
「俺は全然今度でいいから、周平は茉優と行けよ」
「海霧ありがとう。行こ!」
助かった、というのが本音だ。
時間が欲しかった。周平の家に行きたくは無い。
茉優に手をつながれた周平が、肩越しにこちらを振り返ったので手を振る。
周平の口元が動き『バーカ』と声を出さず、眉を顰め加減で言った。
自分がバカなのはわかっていた。コーラを一気飲みさえしなければ、こんなことにはならなかった。
暑くてたまらない。今週の金曜日が終われば夏休みだ。早く、終わればいい。



