夏には向かないバイトがある。
屋外のバイトはだいたい全部ダメだ。そんなことはない、夏の屋外最高って人もいるかもしれないけど、僕には向いてない。
半年続けた駐車場の誘導のバイトも、35度を連日超えアスファルトからの照り返しの熱にさらされ、そろそろ限界だった。
下着までびしょぬれになって5時から9時まで、割のいいバイトだが、夏本番になったら死んでしまう。
中学の野球部時代を思い出せばこんな暑さ何でもないと言いたいところだが、野球部の時も2回倒れた。暑さには弱いのだ。
「おつかれしたー」
スーパーの警備員室に声をかけ、自転車にのって家に向かう。水筒はもう空だった。
自転車のペダルを踏込み、立ち漕ぎをする。この先は坂道だ。勢いをつけて一気に上がる。道の先の空は夏らしい明るい紺色。
坂の上から自宅が見える。
自宅兼、美容院。両親と5つ上の23歳の姉は美容師で、店はそれなりに繁盛していた。姉がギャルだからか、客層もギャルが多い。
「おかえり海霧」
玄関を開けると、父が三和土で缶ビール片手に犬のブラッシングをしていた。
名前はミンチー。6歳の茶色いトイプードルで我が家のアイドル。飛びついて来たミンチーを撫でる。
「ただいま。お父さん、これからミンチーの散歩?」
「うん。少し涼しくなってきたからな。そうだ、お姉ちゃんのコーンロウの練習に付き合ってやってくれ」
「ヤダよ。ハゲる」
「海霧おかえりー」
母も玄関に出てきたが、頭がコーンロウに編み込まれている。姉の練習の犠牲になったのだ。
「ただいま。お母さん、似合うよ」
「ママは美人が際立つな」父が横で満更でもない様子で言った。
ダイニングキッチンへ行くと、テーブルに氷入りのグラスになみなみとコーラがはいって置いてあった。母だろう。気が利く。
結露のついたグラスを手に取り、一気飲みした。身体は暑く、極限までのどが渇いている。
「あ!!」
鋭い叫びが聞こえた。姉の向日葵だ。
「私のなのに!ママー!!海霧が私のコーラハイ飲んじゃった!海霧!それお酒入ってるよ!」
「え?全然わかんねー。普通に美味いコーラだった」
「お酒飲んだことある?」
「無い」
「ママー!」
向日葵の大声に返事はない。両親はミンチーの散歩に行ったようだ。
うるさい姉を無視して風呂場へ行く。
シャワーを浴びている間からなんとなくふわふわした感じがし、身体を洗い終えて、パンイチでダイニングのソファに座った頃には、これは明らかにアルコールの影響である、とわかった。
「やべぇ。頭が悪くなった感じがする。向日葵、酒ってバカになる?」
「元々良くないから心配いらない」
姉が毒舌を吐きながら、グラスに入った氷入りの透明な液体を渡してきた。
「酒?」
「水。ねぇ、コーンロウさせて。左サイドだけでいいから」
「明日は学校ある」
「その頭が平気ならコーンロウも平気」
確かに長めの髪は金髪に近い明るい色に染めていて、毛先はゆるいパーマ、コーンロウにしたところで派手にかわりはない。
所詮姉には叶わない。グラスの水を片手に、姉のなすがままになる。弟なんてこんなものだ。
「私の友達で海霧と遊びたいって子がいるんだけど」
「何歳?」
「21」
「あー、車は?」
「持ってる」
「いいよ、遊んでも」
「かわいいか聞かなくていいの?身長は?」
春の身体測定では175センチあって、街を歩いていても自分より大きな女の子はそうそういなかった。それに自分より大きかったとしても大した問題ではない。
「身長……別にデカくても小さくてもいい。向日葵が俺に紹介するならたぶんブスじゃない」
姉を横目で見上げ、コーンロウの出来栄えを検分する姉と目が合う。
「軽すぎるよ、海霧」
「ただいまー、海霧!周平くんが来てるわよ」
「おじゃまします」
高校のクラスメイトの周平がダイニングに入ってきた。
「周平くんがピザのニオイがするからミンチーが喜んでるわ」母が言った。
確かにミンチーは興奮して周平にまとわりついている。
「ピザ屋のバイトからそのまま来たんで。お母さん、髪かっこいいですね」
「向日葵がやった。俺の頭もほら。お母さん、周平とメシ食いに行ってくる」
「やめときなよ。ママ、さっき海霧が私のコークハイ飲んじゃった。外に出たら補導されるよ」
「カウンターにおいてあったから、コーラだと思ったんだよ!」
自宅で冷やし中華を周平と2人で食べた。
シャワーを浴びた周平からはもうピザ屋の匂いはしない。身長は周平のほうがわずかに高いが、貸したジャージはぴったりだ。
部屋に2人引き上げる。エアコンのスイッチを押し、ベッドに倒れ込む。
「あー、ダルい」
「熱中症じゃねえの」
「酒だと思う。アルコールの匂いする?」
ベッドに座った周平は、身体を伏せて口の辺りの匂いを嗅いだ。
「する。海霧の目も涙目。顔も赤い」
「酒、たぶん強くねえと思う」
「学校でアルコールパッチテストしただろ。赤くなったか」
「少し。一緒にメシ行けなくてごめん」
「海霧のお父さんの冷やし中華が美味かった。風呂まで借りて、ミンチーとも遊んだから、トータルでプラス。なあ、コーンロウがすげー合う。海霧は普段は毒がないから、キツい感じが出ていい」
「もう帰る?」
「そのうち。酒飲んで楽しい気分になったか」
「全然。ダルくて、どっちかっつーと悲しい。周平は飲んだ事ある?」
「無い」
「そんないいもんじゃない。周平がいてよかった。女に片っ端から今から会えるか聞きたくなる」
「ムラムラしてんのかよ」
「あー、わかんねー。人恋しいって言うのか、これ。俺、あんまそういうのよくわかんねーつもりだった」
「女呼ぶ?」
「こんなダセェ状態で?」
「アハハ」
「周平はいいよな。顔も、なんかキリッとしてるじゃん。性格も……声もデケえし。俺なんかこんなタレ目で酒飲んでも弱いし、バカだしもうだめだ」
「酔っぱらってんなぁ」
「うん。周平、泊まって。俺が女に連絡しねーように見張れ」
「いいけど、朝6時に起きて一度、家に帰る。明日、学校がある」
「おはよー」
高校の教室はいつもと同じだ。ポロシャツやワイシャツ姿の人間の群れ。
「かわいい。髪の毛どうしたの?」
「美容師の姉ちゃんの練習台」
「撮っていい?」おとなしく女子に写真を撮らせる。
「今日暇? 遊び行かね?」
「暇じゃない」撮るだけ撮って、女子は去って行った。
自分の机につき、ため息がでる。椅子の背にもたれて足を投げ出す。
「海霧、二日酔いは」
「してねー」周平だ。顔を伏せて見ないようにする。
「寝てたから起こさないで帰った」
「……」
昼休みになり、弁当を出す。前の席の椅子に周平が座った。いつものことだ。
「今日バイトは」
「周平は」
「無し。出かけねえ?」
「あー、今日は女の子と出かけるかも」
「誰と」
「由希奈以外。さっき断られた」
「じゃあ昼休みでいい。昨日の事を話したい」
視線を見交わす。意味ありげな沈黙。
「覚えてない」
あからさまな嘘を見透かしたのか、周平の口元には、薄く笑みが浮かんだ。
「笑うな」
「笑ってない。それ食ったら行こう」
カウンセリングルームに入る。スクールカウンセラーがいるのは週に3日で教室は空き部屋だ。
「アチー。エアコン……」
周平がエアコンのスイッチを入れ、ドアの鍵と小窓のカーテンも閉めた。古ぼけたソファに座ると、スプリングが軋んだ。
カウンセラー用のデスクチェアに周平は座り、こちらを見た。
髪は黒く、いつものようにサラサラだ。染めたことが無いと言っていたが、それでも充分洒落ている。
生まれつき、頭の形と髪質のいい人間の特権。
身長は同じだが、元サッカー部らしい重心のしっかりした体つきといい、目線の鋭さや身のこなしといい、男としての格は周平がはるかに上だ。
「昨日はごめん」顔を両手で覆い、謝る。
「覚えてないんだろ」
「ぼんやりと、何があったかは……。ごめん、本気で謝る」
「謝らなくていい。そのために呼び出したんじゃない」
「周平、水に流して」
「無理だ」
顔を覆っていた両手を離し、周平を見た。
「海霧がキスしてきた時は驚いた。でも今まで付き合った女とのキスより、『合ってる』気がした」
「酔っぱらってキスしただけだって……」
「酒抜きでもう一度試そう」
「は? なんで」
周平がデスクチェアから立ち上がり、隣に座ってソファが軋んだ。
「海霧が俺のことを生理的に無理ならやめる」
間近で見つめ合う。
高校1年で仲良くなってから1年、ほぼ毎日一緒にいた。昨日、自分から酒の勢いでキスした事が生々しく蘇る。整った唇に、溺れるようにキスした。特別な経験だっただろうか。
女の子とは適当に遊びすぎて何人としたのかも覚えていない。
周平の方はと言えば学年屈指のモテ男で、ひっきりなしに告白されて付き合うが長くは続かない。早くて3日、長くても2ヶ月。
「生理的に無理とかじゃねえけどさぁ……」
汗が首筋から胸元に流れ、腹の上を通り過ぎていった。
たかがキスだ。すれば終わる。仕方なしに周平の首の後ろに手をやり、恐る恐る唇を合わせた。
頭の何処かが痺れる感覚がある。何秒すればいい?5秒?10秒で離れ、顔を背ける。
「どうだった」
「普通」
「嫌な感じは」
「しない」
「もう一度しよう」
今度は逆に周平の手が、首の後ろに回って引き寄せられた。
開き気味の口元同士が合わさって、何度か探るように押し当て合い、キスは深くなった。
予鈴が鳴った。ソファで抱き合ってしていたキスをやめ、身体を起こす。
「この部屋にきて、30分。ずっとキスしてた。海霧、どう思う」
「……ノーコメント」
「相性がいい。最高だったって言えよ」
ニヤけた笑いを浮かべ、周平はもう一度キスした。
屋外のバイトはだいたい全部ダメだ。そんなことはない、夏の屋外最高って人もいるかもしれないけど、僕には向いてない。
半年続けた駐車場の誘導のバイトも、35度を連日超えアスファルトからの照り返しの熱にさらされ、そろそろ限界だった。
下着までびしょぬれになって5時から9時まで、割のいいバイトだが、夏本番になったら死んでしまう。
中学の野球部時代を思い出せばこんな暑さ何でもないと言いたいところだが、野球部の時も2回倒れた。暑さには弱いのだ。
「おつかれしたー」
スーパーの警備員室に声をかけ、自転車にのって家に向かう。水筒はもう空だった。
自転車のペダルを踏込み、立ち漕ぎをする。この先は坂道だ。勢いをつけて一気に上がる。道の先の空は夏らしい明るい紺色。
坂の上から自宅が見える。
自宅兼、美容院。両親と5つ上の23歳の姉は美容師で、店はそれなりに繁盛していた。姉がギャルだからか、客層もギャルが多い。
「おかえり海霧」
玄関を開けると、父が三和土で缶ビール片手に犬のブラッシングをしていた。
名前はミンチー。6歳の茶色いトイプードルで我が家のアイドル。飛びついて来たミンチーを撫でる。
「ただいま。お父さん、これからミンチーの散歩?」
「うん。少し涼しくなってきたからな。そうだ、お姉ちゃんのコーンロウの練習に付き合ってやってくれ」
「ヤダよ。ハゲる」
「海霧おかえりー」
母も玄関に出てきたが、頭がコーンロウに編み込まれている。姉の練習の犠牲になったのだ。
「ただいま。お母さん、似合うよ」
「ママは美人が際立つな」父が横で満更でもない様子で言った。
ダイニングキッチンへ行くと、テーブルに氷入りのグラスになみなみとコーラがはいって置いてあった。母だろう。気が利く。
結露のついたグラスを手に取り、一気飲みした。身体は暑く、極限までのどが渇いている。
「あ!!」
鋭い叫びが聞こえた。姉の向日葵だ。
「私のなのに!ママー!!海霧が私のコーラハイ飲んじゃった!海霧!それお酒入ってるよ!」
「え?全然わかんねー。普通に美味いコーラだった」
「お酒飲んだことある?」
「無い」
「ママー!」
向日葵の大声に返事はない。両親はミンチーの散歩に行ったようだ。
うるさい姉を無視して風呂場へ行く。
シャワーを浴びている間からなんとなくふわふわした感じがし、身体を洗い終えて、パンイチでダイニングのソファに座った頃には、これは明らかにアルコールの影響である、とわかった。
「やべぇ。頭が悪くなった感じがする。向日葵、酒ってバカになる?」
「元々良くないから心配いらない」
姉が毒舌を吐きながら、グラスに入った氷入りの透明な液体を渡してきた。
「酒?」
「水。ねぇ、コーンロウさせて。左サイドだけでいいから」
「明日は学校ある」
「その頭が平気ならコーンロウも平気」
確かに長めの髪は金髪に近い明るい色に染めていて、毛先はゆるいパーマ、コーンロウにしたところで派手にかわりはない。
所詮姉には叶わない。グラスの水を片手に、姉のなすがままになる。弟なんてこんなものだ。
「私の友達で海霧と遊びたいって子がいるんだけど」
「何歳?」
「21」
「あー、車は?」
「持ってる」
「いいよ、遊んでも」
「かわいいか聞かなくていいの?身長は?」
春の身体測定では175センチあって、街を歩いていても自分より大きな女の子はそうそういなかった。それに自分より大きかったとしても大した問題ではない。
「身長……別にデカくても小さくてもいい。向日葵が俺に紹介するならたぶんブスじゃない」
姉を横目で見上げ、コーンロウの出来栄えを検分する姉と目が合う。
「軽すぎるよ、海霧」
「ただいまー、海霧!周平くんが来てるわよ」
「おじゃまします」
高校のクラスメイトの周平がダイニングに入ってきた。
「周平くんがピザのニオイがするからミンチーが喜んでるわ」母が言った。
確かにミンチーは興奮して周平にまとわりついている。
「ピザ屋のバイトからそのまま来たんで。お母さん、髪かっこいいですね」
「向日葵がやった。俺の頭もほら。お母さん、周平とメシ食いに行ってくる」
「やめときなよ。ママ、さっき海霧が私のコークハイ飲んじゃった。外に出たら補導されるよ」
「カウンターにおいてあったから、コーラだと思ったんだよ!」
自宅で冷やし中華を周平と2人で食べた。
シャワーを浴びた周平からはもうピザ屋の匂いはしない。身長は周平のほうがわずかに高いが、貸したジャージはぴったりだ。
部屋に2人引き上げる。エアコンのスイッチを押し、ベッドに倒れ込む。
「あー、ダルい」
「熱中症じゃねえの」
「酒だと思う。アルコールの匂いする?」
ベッドに座った周平は、身体を伏せて口の辺りの匂いを嗅いだ。
「する。海霧の目も涙目。顔も赤い」
「酒、たぶん強くねえと思う」
「学校でアルコールパッチテストしただろ。赤くなったか」
「少し。一緒にメシ行けなくてごめん」
「海霧のお父さんの冷やし中華が美味かった。風呂まで借りて、ミンチーとも遊んだから、トータルでプラス。なあ、コーンロウがすげー合う。海霧は普段は毒がないから、キツい感じが出ていい」
「もう帰る?」
「そのうち。酒飲んで楽しい気分になったか」
「全然。ダルくて、どっちかっつーと悲しい。周平は飲んだ事ある?」
「無い」
「そんないいもんじゃない。周平がいてよかった。女に片っ端から今から会えるか聞きたくなる」
「ムラムラしてんのかよ」
「あー、わかんねー。人恋しいって言うのか、これ。俺、あんまそういうのよくわかんねーつもりだった」
「女呼ぶ?」
「こんなダセェ状態で?」
「アハハ」
「周平はいいよな。顔も、なんかキリッとしてるじゃん。性格も……声もデケえし。俺なんかこんなタレ目で酒飲んでも弱いし、バカだしもうだめだ」
「酔っぱらってんなぁ」
「うん。周平、泊まって。俺が女に連絡しねーように見張れ」
「いいけど、朝6時に起きて一度、家に帰る。明日、学校がある」
「おはよー」
高校の教室はいつもと同じだ。ポロシャツやワイシャツ姿の人間の群れ。
「かわいい。髪の毛どうしたの?」
「美容師の姉ちゃんの練習台」
「撮っていい?」おとなしく女子に写真を撮らせる。
「今日暇? 遊び行かね?」
「暇じゃない」撮るだけ撮って、女子は去って行った。
自分の机につき、ため息がでる。椅子の背にもたれて足を投げ出す。
「海霧、二日酔いは」
「してねー」周平だ。顔を伏せて見ないようにする。
「寝てたから起こさないで帰った」
「……」
昼休みになり、弁当を出す。前の席の椅子に周平が座った。いつものことだ。
「今日バイトは」
「周平は」
「無し。出かけねえ?」
「あー、今日は女の子と出かけるかも」
「誰と」
「由希奈以外。さっき断られた」
「じゃあ昼休みでいい。昨日の事を話したい」
視線を見交わす。意味ありげな沈黙。
「覚えてない」
あからさまな嘘を見透かしたのか、周平の口元には、薄く笑みが浮かんだ。
「笑うな」
「笑ってない。それ食ったら行こう」
カウンセリングルームに入る。スクールカウンセラーがいるのは週に3日で教室は空き部屋だ。
「アチー。エアコン……」
周平がエアコンのスイッチを入れ、ドアの鍵と小窓のカーテンも閉めた。古ぼけたソファに座ると、スプリングが軋んだ。
カウンセラー用のデスクチェアに周平は座り、こちらを見た。
髪は黒く、いつものようにサラサラだ。染めたことが無いと言っていたが、それでも充分洒落ている。
生まれつき、頭の形と髪質のいい人間の特権。
身長は同じだが、元サッカー部らしい重心のしっかりした体つきといい、目線の鋭さや身のこなしといい、男としての格は周平がはるかに上だ。
「昨日はごめん」顔を両手で覆い、謝る。
「覚えてないんだろ」
「ぼんやりと、何があったかは……。ごめん、本気で謝る」
「謝らなくていい。そのために呼び出したんじゃない」
「周平、水に流して」
「無理だ」
顔を覆っていた両手を離し、周平を見た。
「海霧がキスしてきた時は驚いた。でも今まで付き合った女とのキスより、『合ってる』気がした」
「酔っぱらってキスしただけだって……」
「酒抜きでもう一度試そう」
「は? なんで」
周平がデスクチェアから立ち上がり、隣に座ってソファが軋んだ。
「海霧が俺のことを生理的に無理ならやめる」
間近で見つめ合う。
高校1年で仲良くなってから1年、ほぼ毎日一緒にいた。昨日、自分から酒の勢いでキスした事が生々しく蘇る。整った唇に、溺れるようにキスした。特別な経験だっただろうか。
女の子とは適当に遊びすぎて何人としたのかも覚えていない。
周平の方はと言えば学年屈指のモテ男で、ひっきりなしに告白されて付き合うが長くは続かない。早くて3日、長くても2ヶ月。
「生理的に無理とかじゃねえけどさぁ……」
汗が首筋から胸元に流れ、腹の上を通り過ぎていった。
たかがキスだ。すれば終わる。仕方なしに周平の首の後ろに手をやり、恐る恐る唇を合わせた。
頭の何処かが痺れる感覚がある。何秒すればいい?5秒?10秒で離れ、顔を背ける。
「どうだった」
「普通」
「嫌な感じは」
「しない」
「もう一度しよう」
今度は逆に周平の手が、首の後ろに回って引き寄せられた。
開き気味の口元同士が合わさって、何度か探るように押し当て合い、キスは深くなった。
予鈴が鳴った。ソファで抱き合ってしていたキスをやめ、身体を起こす。
「この部屋にきて、30分。ずっとキスしてた。海霧、どう思う」
「……ノーコメント」
「相性がいい。最高だったって言えよ」
ニヤけた笑いを浮かべ、周平はもう一度キスした。



