おれとぼくの恋愛事情

 清水君の気遣いもむなしく、土砂降りの雨で二人ともずぶ濡れになった。
「冷てー」
 琉生の住むマンションは十世帯ほどが入る、新しめのマンションの2階の角部屋だった。
 琉生はマンションに到着するやいなや、鍵を開けすぐさま部屋に入った。
 玄関に入ると廊下があり、奥がリビングになっている。
 そこに僕は通された。
「わりい、狭くて」
「こちらこそ突然おじゃましちゃってごめんね」
「こっちが誘ったんだし。すぐタオルもってくるわ。待ってて」
「ありがとう」
 清水君はバスタオルを持ってすぐに戻ってきた。
「ほれ、これで拭いて」
「ありがとう」
 僕はタオルに顔をうずくめると、清水君の香りを感じた。
 あの取材の日に嗅いだ彼の香りがそこにはあった。
 「まったく、早く拭かないと風邪ひくぞ」
 清水君は僕が持っていたタオルを奪うと僕にかぶせ、ガシガシ髪を拭いた。
 清水君が無邪気に笑っている声が聞こえる。
「うっわ。強い、強いよ」
 僕は清水君の両腕を掴んだ。彼の筋肉質なたくましい腕がビクッとして、僕から離れた。
「ご、ごめん。着替え。着替え持ってくる」

 清水君といると緊張する。
 あんなに会いたかったのに、いざ二人になってみると何を話していいかわからない。
 僕は頭を覆ったタオルの匂いを嗅いだ。
 一瞬で清水君に包まれた気分になった。

 清水君の貸してくれたジャージ姿でリビングに戻ると、彼はキッチンで飲み物を用意していた。
「何飲む?いろいろあるけど、お茶、オレンジジュース、コーラ」
「じゃ、お茶で」
「オッケー」
 清水君が飲み物を運んできた。
「座れよ」
 清水君はリビングのソファを勧めた。
 部屋を見渡すといくつかトロフィーが飾られていることに気づいた。
「あれって清水君の?」
「そう、ずっとサッカーやってるから。優勝するともらえるんだよ」
「すごい……いつからやってるの?」
「小1から。杉本ってサッカー部にいるんだけど、あいつに誘われて始めたんだ。まさかこんなに長く続くとはね。自分でも思っていなかった」
「好きなんだね」
「そうなんだろうなぁ。」
「どうぞ。あとお菓子。つまんで」
 クッキー、チョコレート、グミ、といった片手でつまめるお菓子が白いお皿に乗っていた。
「ありがと」

 清水君が隣に座る。
 二人の間には30センチメートルの隙間。
 僕は清水君の顔を見つめると、彼も見つめ返してきた。
 小指が触れた。
 彼は手を引かなかった。
 むしろ、確かめるように僕の手の甲へ重ねてくる。
 息がかかるほど近くに、清水君の顔があった。
 視線を外せない。
 唇が触れる。
 そう思って、僕は目を閉じた。
 すると、清水君は「わりぃ」と言った。
「何が?」
「だって、白城は彼女いるのに。変な空気作って悪かった」
 清水君は頭を抱えて髪をくしゃくしゃにした。
 彼女?
 一体何のことだ?!
 全く身に覚えがない。
 僕は血の気が引いた。
 静まり返った部屋にはまだ雨の音が響いていた。