おれとぼくの恋愛事情

 美術予備校の帰り、電車を降りたところでちょうど雨が降ってきた。
 今日は散々だな。
 予備校での講評も、散々だった。

 『デッサンはよくできてる、完璧に近い。でも……表現に感情がのっていない』

 真っ白な紙に最初の線を入れる時は緊張する。
 でも、そこから線を重ねていくうちに、目の前のものへどれだけ近づけるかに夢中になっていく。

 「はぁ。忠実に描くのは得意なんだけどなぁ」

 でも、それでは単なるデッサンの上手い奴から抜け出せない。
 僕の求める世界はこれではない。
 デッサンの先にあるもの……。

 まだやまぬ雨を見つめながら、ぼんやり考えた。

 それにしても、雨はやむだろうか。
 通り雨っぽいよな。
 待つか。
 駅でたたずんでいると、ポケットに入れていたスマホが震えた。

 『雨だけど大丈夫?迎えに行こうか?』

 沙羅からのメッセージ。

 『待ってればやむと思うから、待つよ』

 メッセージに返信した。
 すぐにOKのスタンプが返ってきた。

 沙羅はいつも、僕が連絡を欲しいと思うタイミングで連絡をくれる。
 今まではそれが普通だったし、これからも沙羅と一緒にいると思っていた。
 空気のような存在。
 沙羅がいたから、自分はここまでこれた。
 僕はずっと沙羅に守られてきた。
 幼いころから大人しくて、どちらかというと外で走り回るよりも部屋の中で絵を描いている子どもだった。
 小学校に入ると、絵を描いていることが目立つらしく、からかわれることが多かった。
「また絵、描いてる」
「変なの」
「ヘタクソ」
 子どもながらに傷つく言葉を毎日のように浴びせられた。
 でも、沙羅は僕の味方だった。
 そんな揶揄する声を聞くと僕の元に飛んできて、からかっている奴らを一喝した。
 「芸術を理解できない人がバカげたこと言わない方がいいわよ。バカがバレるから」
 沙羅がいたからここまでこれた、感謝している。
 「陽向、わたしはいつでも陽向の味方だから。陽向には絵の才能がある。間違いない」
 沙羅のこの言葉があったから、絵をやめようと思った時も辞めずに続けられた。
 降り続ける雨の音を聞きながら、幼い頃の沙羅とのやり取りを思い出した。