おれとぼくの恋愛事情

 清水琉生……。
 
「陽向は客寄せパンダじゃないのよ!」
 沙羅は納得がいかないようで間宮マユに抗ったが、彼女はどこ吹く風で聞こえないふりをしていた。
 僕は考えるまでもなく「いいよ」と口にしていた。
「ありがとうーーーー!!決まった!」
 間宮マユは僕の手を両手で包み込むと、涙目になって僕の顔を見上げた。
 その瞬間、彼女の頭の中は切り替わったのか、突然仕事モードになった。
「そうだ、LIME交換しよう。取材の日程とか連絡を取り合うことが多くなると思うし」
 僕はLIMEの画面を出し、間宮マユを友達に追加した。
 すぐさま彼女から『よろしく』というペンギンの絵文字がピコンと入った。
 
 残された僕らは彼女が走り去る後ろ姿を呆然と見ていた。
 僕はこれから沙羅のご機嫌取りをしなくてはならない。この後、自宅まで沙羅と一緒なのだ。
 僕の返事を聞いた瞬間、沙羅の機嫌が悪くなったのは一目瞭然だった。
「信じられない。陽向、どこまでお人好しなの?」
「あまりにもかわいそうで、断れなかった」
 これは口実だ。
「呆れた。陽向は利用されてるんだよ?何で断らなかったのよ」
「そんなに怒らないでよ。沙羅のきれいな顔が台無しだよ」
「話をはぐらかして……」
 沙羅が子供っぽく頬を膨らませた。
 
 取材当日、清水琉生は美術室のテーブルに腰かけて、足をぶらぶらさせていた。
 西日が彼を照らし、影を作っていた。
 インタビューの後、写真撮影に入った。
 今回の校内新聞には新聞部の存続がかかっているだけあって、間宮マユはかなり気合が入っているようだった。まさか、アイドル雑誌でポージングを研究しているとは思いもしなかった。
 清水琉生はかなり恥ずかしがっていたが、僕も正直なところ恥ずかしかった。
 でも、僕まで恥ずかしがっていたら、いい写真は撮れない。これは間違いない。
 人物を対象にしてデッサンをすることがあるが、モデルが照れているとこちらまで妙に恥ずかしくなり、いいデッサンができたためしがない。
 被写体が堂々としていないと、いい作品はできあがらない。それは描く側、撮る側にも同じことが言える。
 
 僕が椅子に座り、後ろに回った清水琉生が僕を抱きしめ、カメラ目線を向ける。
 僕と清水琉生が左右に分かれて床に座り、片膝を立て、もう片方の脚を伸ばすポーズ。
 床にあぐらをかく清水琉生と彼の膝の上に頭を乗せ、床に横たわる僕。
 
 この3ポーズを撮りたいらしい。
 素人の僕たちにはハードルが高いけれど、引き受けたからにはやるしかない。
 
 清水琉生の心臓の音が僕にも伝わる。僕の心臓の音も彼には伝わっているはずだ。
 シャツとシャツが擦れ合う音を感じ、その合間に間宮さんのシャッター音が少し大きく響く。
「琉生、もう少し顔を白城くんに寄せて」
「こうか……」
「うん、その位置、照れないで」
「お、おう」
「白城くんは目線、カメラ目線で。そう、今のままキープして」
 間宮さんからの指示通り僕たちは動いた。
 最初はぎこちなかった清水君も徐々に撮られることに慣れていったようで、最後の方には、僕との距離が近くなっても、清水君は自然に笑えるようになっていた。

「はい、ありがとうございました!!」
 間宮さんの張りのある声が取材の終了を告げた。
「マユ、あんな恥ずかしい思いさせられたんだから、いいもの作れよ」
「任せなさいっての。私を誰だと思ってんのよ!」
「で、新聞はいつ発行なんだよ?」
「7月、間に合わなかったら9月かな。夏休み中に一気に作り込む」
「発行日、決まってねーのかよ」
「まあ、学生は学業優先ってことで。ハハハッ」
「ルーズな奴」

 ……どうしてだろう……。

 清水君と間宮さんの、遠慮のない会話が少しだけ羨ましかった。
 いや、羨ましいというより――これが、嫉妬……なのかもしれない。