おれとぼくの恋愛事情

 十二月に入ると、教室の空気は一気に受験一色になった。
 登校するクラスメイトも少なくなってきた。
 まあ、当然だよな。
 俺も毎日は登校してないし……。
 でも、人と会わない日が続くと気持ちが塞いでくるし、生活のリズムが狂うので、俺は週に3日くらいは登校することにしていた。
 陽向とは相変わらず会えていない。
 あの日、陽向と向き合って話して以来、陽向の姿を見なくなった。
 陽向の受験の結果も気になるが、こっちから聞くのも気が引けた。
 それにしても、眠い。
 深夜まで勉強をしているせいか、昼間は眠くて仕方ない。
 昼寝でもするか……。
 昼寝の場所と言えば、美術室しかなかった。
 美術室のドアを開けると、左手にパレット、右手に筆を持ち、真剣なまなざしでキャンバスに向かっている陽向がいた。
 俺が入ってきたことにも気づかないくらい、集中していた。
「……陽向……」
 嬉しさから思わず名前を呼んだ。
「……あっ……」
 陽向は絵から目を離し、俺に顔を向けた。
「琉生……なんで?……」
「あまりにも眠くて昼寝に来たんだけど。そしたら、陽向が……いた……」
 陽向に触れたいのに、どう接していいのかわからない。
 ここ数か月で、陽向は急に大人びた気がした。
 その分、自分との距離が開いたように感じた。
 パレットと筆を置き、エプロンを外すと、陽向はゆっくりと俺の方へ歩いてきた。
「琉生……。言いたいことがあるんだ」
 俺は小さくうなずく。
「受かったんだ。来年の夏からボストンに行くよ」
 肩が小さく震えて、思わず泣き出しそうになった。
 嬉しさと、陽向が遠くに行ってしまう寂しさとで、感情がごちゃ混ぜになった。
「これだけは自分の口から伝えたくて。先生たちにも言わないようにお願いしてた」
 陽向は満面の笑みを浮かべた。
 そうか、だから小林は俺に言わなかったんだな……。
 俺は急に身体の力が抜けて、その場に座り込みそうになったところを、陽向が支えてくれた。
 俺は陽向に抱きついて、「もう少しだけ、一緒にいたい」とささやいた。
 
 その日、俺たちは久しぶりに同じ部屋で過ごした。
 話したいことは、いくらでもあった。
 それなのに、言葉にすると壊れてしまいそうで、俺たちはただ隣に座っていた。
 触れた肩の温度だけが、まだ終わっていないと言っているようだった。