おれとぼくの恋愛事情

 俺も大学受験予備校に通うようになり、時間に追われるようになった。
 サッカーで鍛えた集中力が役に立っているのか、予備校の授業は思った以上に頭に入ってきた。
 何より驚いたのが、成績が上がると勉強が面白いと感じるようになってきたことだ。
 面白くなると、もっとやりたくなる。
 サッカーも一緒だったな……と、つい最近のことなのに昔のことのように思い出した。
 
 毎日予備校に通っていると、たまに気分転換したくて予備校の周辺を歩いた。
 何の気なしに歩いていると、一軒の文房具屋があった。
 ちょうどノートがなくなりそうだったので、買っていくか。
 ドアを開けるとカランとベルが鳴った。
 入ってみてわかったのだが、そこは普通の文房具屋ではなく、画材屋と言ったほうがしっくりくる店だった。
 鉛筆、消しゴム、絵の具、筆、スケッチブック……全部俺の知らない世界だった。
 陽向のいる世界はこういうところなんだな……。
 少しだけ……陽向が頑張っている世界に触れた気がした。
 見るものすべてが新しい。
 いつか陽向が油絵のことを説明してくれたことを思い出した。
 油絵の筆のコーナーに立つ。
 まずメーカーが何種類もあるのに驚いた。それに大小さまざまな種類があるので、それぞれどんな役割があるのかわからなかった。
 陽向がミサンガをくれたように、俺も何かの役に立ちたい。
 俺は画材屋の店員に声をかけた。
 「油絵を描く人に贈りたいんですけど、どの筆がおすすめですか」

 店員に勧められるまま、ダヴィンチというメーカーの筆を一本買った。
 正直、それがどれだけいいものなのかはわからなかった。
 でも、陽向の役に立つかもしれないと思ったら、それだけで十分だった。